今、多くのブランドが再評価しているのが「物理的な接点」である。その中でも、スマホの画面を越えてファンの手元に届く「ぬいぐるみ」というデバイスは、いかにしてブランドへのロイヤルティを形成するのか。連載「愛されぬいの履歴書」第5回は、法学をはじめとする学術書の老舗、有斐閣の営業部で活躍する「ろけっとぽっぽー」を取材した。2014年にSNS上での偶然と言い間違いから生まれ、二度のぬいぐるみ化でいずれも完売を記録した「ろけっとぽっぽー」。堅いイメージを持たれがちな専門書の出版社が、なぜぬいぐるみに情熱を注ぐのか。作画と運営を担当する同社の社員に話を聞いた。
言い間違いと「SNSの圧」から誕生した、ロケットをかぶった鳩
有斐閣の看板商品である『ポケット六法』。ある日、営業部員がこの名称を「ろけっとぽっぽー」と言い間違えた、という他愛のない社内エピソードがすべての始まりだった。その事実を別の営業部員が何気なく公式Twitter(当時)で呟いたところ、読者から大きな反響を獲得。さらに社内の別アカウントから「今日あたりイラストがアップされると期待して待っています」という、ユーモア溢れる“圧の強いリプライ”が飛んできたことで、営業部員が急遽「ロケットをかぶった鳩」のイラストを描き上げた。
ろけっとぽっぽーさん。
こうして、偶然とSNS上の遊び心から生まれた「ろけっとぽっぽー」は、徐々に線のシンプルさと丸みを帯びた現在の形状へと落ち着き、主にXを通じて同社商品のPRに奔走するようになる。
ろけっとぽっぽーの担当者自身が「絶対に形にしたい!」と強く願い、Xで交流を深めてきた多くのファンからはぬいぐるみ化を切望する声に背中を強く押され、その情熱がプロジェクトを突き動かした。
「ぬいぐるみは存在するだけでいい」
しかし、1877年創業の歴史を持ち、法学・経済学などの本格的な学術書を世に送り出してきた有斐閣において、「ぬいぐるみの制作」は前例のない挑戦だった。社内からは当然のように「ぬいぐるみを作って何に使うのか?」という、実務的な用途を尋ねる声が上がったという。ろけっとぽっぽー作画担当の営業部員はこう振り返る。
「社内に対して『学術書を出している出版社がぬいぐるみを売る』という新しいイメージを共有するためには、かなりの言葉を尽くしました(役員会への稟議書も提出!)。心の底では『ぬいぐるみは存在するだけでいいのです!』と思っていましたが、粘り強く用途や意義を説明しました」。
さらに、3次元化へのハードルは造形面にもあった。ろけっとぽっぽーの顔の要素は非常にシンプルだからこそ、ミリ単位の配置のズレで印象が大きく変わってしまう。「無表情でありながら、どこか愛らしい」という作画者の頭の中にしかなかった絶妙なバランスを、どうすれば立体で完全に再現できるのか。そこで、担当者自ら紙粘土をこねて立体マスコットのプロトタイプをつくり、制作会社へ渡した。
粘土ぽっぽーを囲むぬいぽっぽーたち。
この熱意が伝わり、サンプルへの細かな修正を数度重ねることで、理想のフォルムが完成。これまで2018年と2023年の2回にわたりぬいぐるみが制作されたが、そのいずれもがまたたく間に完売を記録している。
頭の上のロケットの色は、その年に発行される『ポケット六法』の色によって変わる。





