伊藤忠商事は2025年版統合レポートで構成を大きく見直した。ページ数を削減するとともに、「三方よし」を起点とした経営哲学を冒頭に配置。企業価値算定式を軸とした従来の構成から一歩踏み込み、「伊藤忠らしさ」を起点に価値創造を説明する形へと再構築した。背景には、投資家との対話を重ねる中で見えてきた課題意識があった。
【DATA】
・IR部門の体制(担当部門名/部門人数)
IR部 在籍人数10人
・IR部門のミッション・目標
伊藤忠商事の「成長ストーリー」の更なる訴求と顕在化を通じ、投資家からの更なる投資拡充と外部評価の更なる向上を目指す
・統合報告書の制作体制
主担当部門:IR部、関与部門:各カンパニー(事業セグメント)、総本社職能各部。IR部内主担当3人を中心に全体の企画・構成を行い、関連パートは社内関係部署とも連携し作成。
・統合報告書の想定読者
主要読者:機関投資家
対話から始まった刷新
同社では毎年、統合レポート発行後に投資家向け説明会を実施し、内容に対するフィードバックを収集している。その声を翌年版へ反映するサイクルを重視しており、「マーケットイン」の考え方を統合レポート制作にも取り入れている。
2024年版についても一定の評価を得ていたが、「もっと分かりやすく、シンプルにしてほしい」という声が寄せられた。そこで2025年版ではページ数を大幅に削減した。IR部シニアマネジャーの息えりか氏は、「作り手としては伝えたいことが増えていきますが、本当に必要な情報は何かを考えながら取捨選択しました」と振り返る。
ページ数削減を後押ししたのが、投資家から寄せられた率直な意見だった。IR部長の原田和典氏は、「統合レポートはどうしても『これも載せたい、あれも載せたい』となりがちですが、それではプロダクトアウトになってしまいます。投資家は当社の統合レポートだけを読んでいるわけではありません。本当に伝えるべきことだけを残すことが重要でした」と語る。
その結果、統合レポート単体で全てを説明しようとするのではなく、IRサイトやサステナビリティサイト、有価証券報告書など他の開示媒体との連携も意識した構成へと転換した。レポート上の情報量は絞り込みながらも、必要な情報には他媒体からアクセスできるようにすることで、読みやすさと情報の網羅性を両立させている。
経営哲学を起点に構成を再設計
2025年版で最も大きく変わったのが、経営哲学を前面に押し出した点だ。
「三方よし」を起点に、「マーケットイン」「稼ぐ、削る、防ぐ」「コミットメント経営」「平均点経営」といった経営哲学を冒頭で紹介している。これらの言葉自体は以前から存在していたが、これまでは会長メッセージや事業説明などレポート内の各所に分散していた。
息氏は、「総合商社への注目が高まる中で、投資家から『伊藤忠は他社と何が違うのか』という視点で見られる機会が増えています。そこで改めて当社の強みや価値観を整理し、最初に示したいと考えました」と説明する。
原田氏は、「ページ数を絞ったことで、本当に伝えたいものだけが残りました。そこでまず伝えるべきは当社の経営理念と経営哲学ではないか、という議論になりました」と振り返る。
同社の経営哲学は、近江商人の精神に由来する「三方よし」を土台とし、その実践方法として「マーケットイン」や「稼ぐ、削る、防ぐ」などの考え方が位置付けられている。2025年版では、それらの関係性を整理し直し、「伊藤忠らしさ」を体系的に伝える構成とした。
経営哲学を再整理したカバーストーリー。「三方よし」を起点に、「マーケットイン」「稼ぐ、削る、防ぐ」「コミットメント経営」「平均点経営」といった経営哲学を再整理。従来から語られてきた考え方を、伊藤忠商事らしさの源泉として冒頭に配置した。経営哲学だけでなく、関連する実績データも掲載し、企業価値とのつながりを伝えている。


