AIエージェントが商品選びから購入まで担う「エージェンティックコマース」が、今後の小売・EC市場を大きく変える可能性がある。マッキンゼー・アンド・カンパニージャパンは7月9日、「エージェンティックコマースにおける自動化の進み方」と題したレポートを公表した。保守的なシナリオでも、2030年までにAIエージェントが世界の消費者向け商取引のうち約3兆~5兆ドルを仲介する可能性があると予測している。
同社によると、AIエージェントはすでに商品情報の収集や比較、候補整理などを支援しているが、今後は購入候補の組み合わせや条件確認、発注、代替品の提案まで担うようになるという。単なる検索・比較ツールではなく、購買体験そのものを設計する存在へと進化すると分析した。
日用品・高級品でAI依存度が変わる
同社は、買い物の自動化を6段階で整理した「自動化曲線」を提示した。日用品の定期配送のような単純な自動処理から、AIが購入候補を組み立てる段階、利用者が条件だけを設定してAIが購入を実行する段階、さらに将来的には消費者や小売企業、決済、配送など複数のAIエージェント同士が交渉・契約まで行う世界を描いている。
ノイズキャンセリングヘッドホンを複数比較し、音質、バッテリー、装着感の違いを示し、購入判断は消費者が行う場合はレベル1「判断を助ける」。旅行のフライト、ホテル、アクティビティを組み合わせ、予約前のプランとして提示するのはレベル2「選んでまとめる」──など6段階に整理した
一方で、すべての買い物が自動化されるわけではないと指摘する。日用品や食品など繰り返し購入し、購入後の後悔が少ないカテゴリーでは自動化が進みやすい一方、高級品や人生の節目に関わる商品など、納得感や自分らしい選択が重視される領域では、人による判断が残り続けるとした。旅行や家電、家具などは、AIが比較や組み合わせを支援しながら最終判断は人が担う「選択的な自動化」が進むとみている。
小売・EC企業に迫られる「AIに選ばれる」競争
こうした変化は企業側の競争環境にも影響を及ぼす。これまでは広告や検索結果、ブランド認知、店舗体験などを通じて「人に見つけてもらう」ことが重要だったが、今後はAIエージェントに商品やサービスを正しく理解され、選ばれることが競争力になるという。そのため、商品情報や価格、在庫、配送条件、返品ルール、ポイント制度などをAIが読み取りやすい形で整備する必要があるとしている。
マッキンゼーは、日本企業にとってエージェンティックコマースは単なる新たな販売チャネルではなく、顧客接点やデータ設計、価格戦略、在庫管理、ブランド体験まで見直す構造変化だと指摘。購買体験の丁寧さ、信頼、配送品質、アフターサービス、会員制度など日本企業が強みとしてきた要素も、人だけでなくAIエージェントが理解・評価できる形で提示することが重要になるとしている。

