生活者とブランドの間にAIが介在し、ブランドの選ばれ方が大きく変わりつつある現在。真に顧客に選ばれるブランドをつくるためには何が必要なのか。AI導入からブランド実装までを一気通貫で支援するXA Holdings代表取締役/CEOの河野貴伸氏に、これからのマーケターに求められる力と、新たに始動する「ブランド・アライアンス研究会」の展望について話を聞いた。
XA Holdings 代表取締役CEO 河野貴伸氏
差別化の起点は組織のカルチャーに収束する
━━テキスト昨今、短期的な売上を目指す刈り取り型のマーケティング施策だけでなく、選ばれる理由の根本となる「ブランド」を重視する声が高まっていると感じています。
私も企業のブランドへの回帰という現象を感じます。最大の理由は、生活者側にAIが普及したことだと見ています。
これまでブランドの情報は、できるだけ多くの人に誤解なく届けるために、「分かりやすく」加工して発信することが中心でした。ブランドらしさやストーリー、文化は、深く説明するほど誤解されやすく、結果として当たり障りのない表現に落ち着きがちという意味です。極端に言えば、ビジョンや世界観を詰め切っていなくても、「なんとなくおしゃれ」というイメージで成立してしまう面があったのです。
ところがAIが間に入ると、個人の文脈まで踏まえた提案が行われるようになります。AIは「ビジネスバッグ」を探す人に対しても、「最近、転職した」「ものづくりを大切にする記事をよく読んでいる」といった文脈まで読み取り、その人に合うブランドを薦めてくれます。
つまり、ブランドに求められることが、「分かりやすく加工して届ける」ことから、「自分たちのスタンスや価値観を、AIにも読み取れる形で表明しておく」ことに変わったのです。だからこそ、ブランドの核を“なんとなく”のままにしておくと、AIに薦めてもらえず、出会うべきお客さまに自分たちの存在を知ってもらうことすら難しくなりかねません。
━━テキストブランディングを実行に移そうとするとき、企業にはどのような課題がありますか。
実行の壁は、組織と信頼の2つです。日本の企業は高度経済成長期以来、仕事を細かく分けて部分ごとに最適化してきたため、社員は会社全体の目指す姿を自分ごとにしづらく、経営がその方針を掲げても現場が動きにくいという状況が生まれています。
しかし、現在は、商品も店舗も接客も、顧客との接点すべてが信頼に直結し、表明した価値観に沿ったスタッフ一人ひとりの行動が求められます。つまりは、会社としての信頼を構築するためには、全社で一貫して動く必要があるのに、組織は部分ごとに動いている。このギャップが、ブランディングの実行を難しくしているのです。
━━テキストテクノロジーが進化し、どの企業も顧客に寄り添うコミュニケーションを展開できる今、結果として体験がコモディティ化してしまう懸念があります。ブランドの差別化の基点となるものは何でしょうか。
あらゆるものがAIでつくれるようになり、ただ“つくる”だけのことに意味はなくなりつつあります。だからこそ、差別化の起点は機能だけでなく、企業の文化や社風といった模倣しづらい「組織のカルチャー」に収束すると考えています。自社が何を良しとするのか、その価値観を深め、「価値の密度」を高めることが不可欠です。
そして、自社の価値観を人とAIに伝えて、模倣されないブランドを実現する上で重要なのが、あいまいな自社らしさを言葉にする「言語化する力」と、それを人にもAIにも誤解なく伝わる言葉や表現、行動に置き換える「翻訳する力」です。
「言語化」については、AIも活用できます。AIは社員ではないのでみんな本音を話しやすく、出てきた案に「違う」とも言いやすいため、判断基準が見えてきます。
━━テキスト言語化と翻訳のために、ブランド担当者は何に向き合えばよいでしょうか。
ひとつ目は「AIに、自社ブランドはどう語られているのか?」。表明した価値観がAIに正しく伝わっているかで、その先の生活者への届き方が変わります。
2つ目は「人は、どんな瞬間に自社ブランドを思い出すのか?」。あらゆる接点が信頼になり、関係は購入者だけでなく、従業員や取引先、応援してくれる人にも広がります。
3つ目は「AIにも人にも伝わる『ブランドの核』は何か?」。リブランディングは、ファンの意見に迎合して内輪ノリになるか、新規層を狙いすぎて痛々しくなるか、両極端に陥りがちです。そうならないために私たちが大切にしているのは、「何がうまくいっていて、何がうまくいっていなかったのか」を客観的に捉えること。
多くのブランドはうまくいかなかった理由は考えても、うまくいっていた理由はあまり考えません。しかも「うまくいった」の中身は、SNSでバズった、売上が伸びた、でもその後ブランドが陳腐化した、などさまざまです。数字だけでなく自社のDNAや「らしさ」を議論のテーブルに上げて言葉にし、守るべきものと変えるべきものを見極める。この核が定まれば、人にもAIにも伝える軸になります。
例えば、世界三大コーヒーにも数えられるコナコーヒーは、「核」がブランドづくりに生きた好例です。そのルーツは、戦前のハワイに渡った日系移民にあります。彼らは「自分たちの仕事が子や孫の代の信頼になる」と考え、黙々と丁寧に働きました。その姿勢が丁寧な収穫につながり、味が良いという評判につながったそうです。文化が商品を磨き、商品を通じて文化がさらに育つ。この循環こそが、模倣されない競争優位性だと考えています。
━━テキストそうした知見を基に、新たに宣伝会議と「ブランド・アライアンス研究会」を立ち上げます。本研究会で、どのような議論をしていきたいですか。
私たちの支援のゴールは、企業が自らブランドを動かす「自走」です。ただ、自走を目指すほど「他社はどうしているのか」を知りたくなります。かつては横並びの価格競争ゆえに手の内を隠していましたが、自分たちらしさが明確なら、その表現は共有し合う方がよい。この研究会では、価値観やカルチャーをどう見つけ、商品やコミュニケーション、社員の行動につなげるかを議論します。経済的なメリットだけでなく、「志」や「世界観」への共感でつながるアライアンスには、大きな可能性があると信じています。共通の価値観を持つ企業同士で知見を共有し、コラボレーションや新たなエコシステムを生み出す場を、皆さんと共につくっていきたいですね。
研究会で実施したワークの成果物はそのまま社内に持ち帰り、部門会議などで転用可能。ブランドの現在地の共有からその後のアクションまでを一気通貫で実装する。
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