「AIでなくなるのは『付加価値の低い作業』」 広告運用を8カ月で内製化、獲得単価を保ったまま獲得数は前年度比129% SMNが示す生成AI実装

生成AIの導入が企業で急速に進んでも、マーケティングの成果が上がるとは限らない。PwC Japanの調査によると、日本の大企業では87%が生成AIを活用・推進する一方、「期待を大きく上回る効果」を得ている企業は9%にとどまり、調査対象6カ国で最下位だ。差を分けるのは技術ではなく、成果につなげる「仕組み」であり、AIと人間の役割をどう設計するかが問われている。
 
9月25日に開催された「AIマーケティングDay」(宣伝会議主催)で、ソニーグループのSMN 執行役員の田島精一郎氏が登壇した。「生成AIをマーケティング組織に実装する―内製化支援とAI検索最適化」をテーマに、広告運用の内製化にAIを活用した事例や、ソニーグループと共同開発したAIを使用したターゲット拡張、AI検索最適化(AIO/GEO/LLMO対策)の事例を紹介した。
 
講演では、運用型広告のPDCAのうち「作る・配信する・集める」をAIに任せ、人が「解釈する・判断する」に集中し、勝ち筋を見つけるまで高速でPDCAを回し続ける仕組みを軸に、生成AIを組織に実装する考え方を解説した。

9人分の役割を4人とAIで 膨大な広告運用を内製化

SMNは、自社の広告配信プラットフォーム「Logicad」などで蓄積してきたデータ活用の知見に、生成AIを組み合わせ、マーケティング全体の改善を支援している。生成AIを活用した広告運用の内製化支援、ソニー独自の感性分析AI「SENZAI」によるターゲット拡張、AI検索最適化(AIO/GEO/LLMO対策)の支援を手がける。

田島氏はまず、生成AIを「使う」だけでは成果につながらない理由を説明した。広告案を大量に作れるようになっても、案が増えるほど選ぶ工数が作る工数を上回る。人の時間が解釈と判断に回らなければ、結局は勘で選ぶ状態に戻ってしまう。そこで必要になるのが、工程ごとに人の関与を変える「Human in the Loop」の仕組み化だという。その具体例として紹介したのが、広告運用の内製化だ。

支援先企業では、Google広告、Yahoo!広告、Meta、Microsoft Advertisingの4つのプラットフォームに向け、月数百種類のクリエイティブを制作している。さらに、クリエイティブを継続的に改善するには、企画やコピー制作、デザインに加え、配信結果の分析も必要になり、各工程に専門職を配置すれば9人規模の役割が必要になるという。しかし、支援先の担当者は制作2人、運用2人の計4人。人を増やせば人件費が膨らむだけで、内製化にはAIの活用が欠かせなかったという。

写真 人物

SMN 執行役員 グロースアクセラレーション・事業開発担当 兼 グロースアクセラレーション部長 田島精一郎 氏

そこで、各工程の専門職が担う役割をAIに任せた。バナー案の生成やデータの集約・分析にはAIを活用し、さらに媒体側のAIで配信を最適化する。一方、人が担うのは生成された案の編集・最終判断と、分析結果を踏まえた次の施策の判断だ。人が関わる工程をこの2カ所に絞り込む。これが「Human in the Loop」の具体的な形だ。

AIが画像を分解し、人が次の訴求を決める

仕組みの基盤にはGoogle Cloudを用い、広告の配信実績を集約する環境と、クリエイティブを生成する環境を構築した。コピー提案や画像生成、分析にはGemini、配信実績の集約にはBigQueryを使う。配信結果を人が確認し、生成AIと対話しながら次のクリエイティブを考える。

分析では、バナー画像を訴求内容、色、構図、文字量などの要素に分解。そのうえで配信実績と照合し、成果との関連が強い要素や傾向を抽出する。媒体別の配信結果や、申し込みに至る前の行動も合わせると、分析対象の変数は1万~2万規模になるという。

AIが示した傾向をもとに、人が「どの特典を訴求するか」「どのクリエイティブを増やすか」を判断する。さらに、その判断を新たな広告案の生成に反映し、配信後の結果を再び分析する。制作と分析をつなぐことで、勝ち筋を見つけるまで高速でPDCAを回し続けられるようにした。

こうした体制により、支援先は8カ月で広告運用を内製化。少人数で高速にPDCAを回せるようになり、獲得単価を保ったまま、獲得数は前年度比129%に伸びた。田島氏は、成果を生んだのはAIそのものではなく、人が解釈と判断を続けるループだと強調した。

SMNではさらに、担当者がプロンプトを書かなくても、配信結果を取り込んで分析と次の案の生成が続く、自己改善型のループも検討している。人は解釈と判断だけに向き合えばよい状態を、より手間なく実現する狙いだ。

SMNが支援先で実践した、生成AIで広告運用を内製化するポイントは次の3つだ。

1.工程を分け、「作る・配信する・集める」をAIに任せる
2.人の関与は「解釈」と「判断」の2カ所に絞る(Human in the Loop)
3.バナー画像を要素に分解し、配信実績と照らし合わせて勝因を言語化する

田島氏は、全工程をAIに任せることも可能だが、任せきりにすると、成果が出た理由を担当者が説明できず、施策がブラックボックス化すると指摘した。

AIが示す要素と実績の関係を担当者が理解し、自ら次の判断を下すことで、知見が組織に蓄積される状態を目指している。人が理由を説明できることが、AIに任せられるという「信頼」につながるという。

年齢や性別では捉えきれない「感性」を分析

ターゲットを広げる手法として紹介したのが、ソニーグループと開発したコミュニケーション戦略AI「SENZAI」だ。年齢や性別などの属性だけでは捉えきれない生活者を、価値観や嗜好に基づく「感性」で捉える。

田島氏は、広告媒体のAIによる類似拡張と比べて説明した。類似拡張は、既存の獲得者と似た行動をとる人に配信を広げる手法で、対象は広がるものの、誰に・なぜ効いたのかは分からず、示唆が残らない。SENZAIは、どの感性の人に何が効くかを把握したうえで広げるため、拡張しながら次の判断につながる示唆が残るという。

ソニー独自の12種類の感性タイプと商品の特徴を掛け合わせ、どのような生活者に、どの訴求が響くかを検討する。配信データがないターゲットに対しても仮説を立てられ、配信後は感性タイプ別に結果を解釈できるという。

田島氏は、美容液でも「美しくなる」という訴求と、「オーガニック」「自然体」という訴求では、響く感性が異なると説明。商品への関心を、年代などの属性だけで判断しない考え方を示した。

クリエイティブの開発では、20年分、10万件超の地上波CMのデータも参照する。例えば高速回線サービスの事例では、技術への関心が高く、集中や没入を求める生活者像(感性タイプ)を特定。「コンマ1秒を支配する。」というコピーを導き出した例を示し、「どんな人か」だけでなく「何を作れば人が動くか」まで分かる点を強調した。

AI検索最適化は目的で打ち手が変わる

後半では、生成AIに企業や商品がどう紹介されるかを可視化して改善していく、AI検索最適化を取り上げた。

背景にあるのは、生活者の情報探索の入り口が検索からAIへ移りつつあることだ。総務省の情報通信白書によると、国内の生成AI利用経験は1年で26.7%から58.8%へと倍増した。一方で、AIの回答だけで情報収集が完結し、企業のサイトが訪問されない「ゼロクリック」が問題になっている。AIの回答が表示されると情報系キーワードのクリック率が6割下がるとの調査があり、国内でも検索の23.9%はサイトを訪問せずに完結しているという。ChatGPTやGemini、Perplexity、GoogleのAI Overviewsが答えを示し、検索で上位に表示されても流入につながりにくくなる中、ブランドの第一印象をAIがつくる時代になりつつある。

田島氏は、生活者の情報収集に生成AIが使われる中、企業がAIにどう語られているかを把握し、目的に応じて対応を設計する必要があると説明した。

大手企業グループの採用に関する事例では、AIによる語られ方と参照元を可視化したところ、AIが主に口コミサイトを引用しており、公式の採用情報は参照されていないことが判明した。

そこでKPIを「公式の採用情報が正確に語られること」に設定。広報・人事と連携し、公式情報が正確に引用される状態を目指した。

一方、大手スマートフォンブランドの事例では、強みであるカメラ性能などを比較する質問をしても、AIの回答で候補に挙がらないことが課題だった。そこで、製品情報が十分に読み取られていない状況を踏まえ、比較の質問を起点に製品ページの改善と、外部メディアでの引用獲得を設計した。こちらのKPIは「比較検討で選ばれること」だ。

同じAI検索への対応でも、情報の正確さを重視する採用と、製品の候補入りを目指す比較検討では、評価指標も打ち手も変わるという。何を目指すかを決めるのは人であり、だからこそ設計が欠かせないとした。

自社サイトの外と、AIクローラーの足跡を見る

対策の対象は、自社サイトだけではない。AIの回答が引用する情報源の8割超は、ブランドが所有しない外部メディアだとする調査もある。田島氏は、認知段階ではニュースやPR記事、比較段階では口コミ・SNS・比較サイト、意思決定段階では公式サイトや製品ページなど、段階によってAIが参照する情報源が変わると説明。AIが実際に引用している情報を確認し、自社サイトの外も含めて対応を考える必要があるとした。

SMNのAI検索最適化が特に重視するのが、AIの回答という「出口」に加え、AIクローラーによるサイトへのアクセスという「入口」を確認することだ。サーバーログを調べ、AIがどの情報にアクセスし、正常に取得できているかを把握する。

まず自社サイトの状態を診断し、情報取得の妨げになっている箇所を確認する。そのうえで、AIの回答や引用元と照らし合わせ、人が改善の優先順位を判断。サーバーログという一次データから、AIが実際に求めている情報や取得できていない箇所を特定すれば、直すべきポイントを絞り込め、無駄な投資を抑えられる。田島氏はこれを、AI検索最適化でよく聞かれる「ROIが見えない」という悩みへの答えと位置づけた。こうした「AIで集め、人が解釈・判断する」サイクルを、月次で回していくという。

SMNが実践するAI検索最適化(LLMO対策)の進め方は、次の3ステップに整理できる。

1.AIの語られ方と参照元を可視化し、目的に応じてKPIを決める
2.サーバーログでAIクローラーの足跡を調べ、情報が正しく取得されているかを確認する
3.自社サイトの改善と外部メディアでの対策を実施し、AIの回答の変化を月次で検証する

広告運用の内製化からAI検索への対応まで、SMNが共通して重視するのは、人が解釈と判断を行う工程を残すことである。AIで手間のかかる作業を減らし、人が解釈と判断に集中するからこそ、勝ち筋を見つける高速PDCAを回し続けられるという考え方だ。「AIでなくなるのは、手間がかかるのに付加価値の低い『作業』。価値を上げるのは人間の『解釈』と『判断』だ」。田島氏はそう締めくくり、AI・データ・プラットフォーム・コンサルティングの強みとソニーグループとの連携を生かし、エンジニアやマーケターが支援先の現場に入り込んで、業務に合わせた仕組みづくりから組織への定着まで伴走していくとした。

お問い合わせ

SMN株式会社

Webサイト:https://www.so-netmedia.jp/

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