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コラム

電通デザイントーク中継シリーズ

「ヒットさせてと言われても」山本宇一×天野譲滋×谷尻誠×石阪太郎【後編】

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【前回】「「ヒットさせてと言われても」山本宇一×天野譲滋×谷尻誠×石阪太郎 座談会【前編】」はこちら

空間プロデューサーの山本宇一さんは、東京の「カフェ文化」の草分け的な存在。駒沢「バワリーキッチン」、表参道「ロータス」「モントーク」などの空間プロデュースに加えて、人と人がつながるコミュニティーをつくってきました。心地よい空間をデザインし続けてきた山本さんですが、ヒットの秘訣はむしろ「世の中に乗らないこと」だと語ります。今回のデザイントークでは、山本さんのデザインに共感する、ジョージクリエイティブ・カンパニーの天野譲滋さんと、建築家の谷尻誠さんをゲストに迎えて、電通ライブの石阪太郎さんが聞き役となり、ヒットする空間づくりの思考プロセスを探ります。

「できない」と決め付けているのは自分

山本:僕が「ヒットさせて」と依頼されてつくった案件では、三菱地所の新丸ビルの7階につくった「marunouchi HOUSE(マルノウチハウス)」があります。ビルの5階から7階が飲食店なのですが、エレベーターで5階や6階で降りてしまう人が多く7階が弱かったんです。

山本宇一
1963年東京生まれ。都市計画・地域開発などのプランニングに携わった後、飲食業に転身。
97年6月駒沢に「BOWERY KITCHEN」をオープン。表参道「LOTUS」「MONTOAK」に加え、「DEAN&DELUCA」日本の総合プロデュースや、「marunouchi HOUSE」などを手掛けて活躍は多岐にわたり、現代の東京のカルチャーをけん引する。

そこで、僕はテラスという気持ちのいい場所があるのだから、外でご飯を食べられるようにする企画を提案したら、当初は反対されました。それに僕が「ヨーロッパの田舎風」のイメージにしたいと言うので「丸の内のテラスをヨーロッパの田舎に?」と困惑もしていました。でも結局、ふたを開けてみると、これが大好評でプロジェクトに関わった人たちはみなさん出世されました(笑)。

谷尻:僕が宇一さんと一緒にお仕事をさせてもらったのは、3年半ほど前で、大阪の飲食店「CUBIERTA(クビエルタ)」のプロデュースでした。

衝撃的だったのは「屋上の階段室に厨房をつくる」と言われたことです。自分の経験からは、場所も広さも、厨房をつくるには足りなかった。そしたら宇一さんは「建物を壊したらいいじゃん」と、平気で言う。あの時は、この人は「何を言っているんだろう」と思いました(笑)。

しかし、無茶苦茶だなと思いながら、いざつくってみると実現できた。その時に、「できない、と決め付けているのは自分の経験からなんだ」と気付かされました。そして、できるという可能性を見つけられる人になることが重要だと学びました。自分の仕事に、大きな影響を与えたプロジェクトになりました。

山本:腕がいい人と仕事をする時は、あえて「無茶を言う」ようにしているんです。自分が思い描いた通りのものが出来上がっても、面白くないじゃないですか。無茶を言うと、化学反応が起きて、想像以上のものが出てくる。だから面白いんです。

谷尻誠
建築家。SUPPOSE DESIGN OFFICE Co.,Ltd. 代表取締役

1974年広島生まれ。2000年建築設計事務所SUPPOSE DESIGN OFFICE設立。14年から吉田愛氏と共同主宰。広島・東京の2カ所を拠点とし、インテリアから住宅、複合施設など国内外合わせ多数のプロジェクトを手がける傍ら、穴吹デザイン専門学校客員特任講師、広島女学院大学客員教授、大阪芸術大学准教授なども務める。最近では東京事務所に飲食業態「社食堂」や不動産屋「絶景不動産」を開業するなど、活動の幅も広がっている。著書に「談談妄想」(ハースト婦人画報社)「1000%の建築」(エクスナレッジ)、作品集に「SUPPOSE DESIGN OFFICE -Building in a Social Context」(FRAME社)が11月日本発売予定。

谷尻:後から思うと、楽しかったプロジェクトの一つでしたが、渦中にいる時は、夜な夜な宇一さんと打ち合わせをして、本当に大変でした(笑)。

この仕事以降は、空間の企画から立ち上げるプロジェクトが増えました。泊まれる本屋がコンセプトの「BOOK AND BED TOKYO」は、本棚の向こうにベッドルームをつくったホステルです。本を読むことを目的に宿泊するという、新しいユーザー層を開拓できたことが、この企画の一番の価値ではないかと思っています。

最近、自分のオフィスも改装しました。「細胞をデザインする」をコンセプトに、大きな部屋の真ん中にオープンキッチンを設けて、オフィスと食堂の境界をなくした空間です。いい食事がいい細胞をつくり、体が健康になれば、思考もプラスになって、いいアイデアを出せるんじゃないかと企画しました。

天野譲滋
デザインビジネス プロデューサー

京都生まれ。ジョージクリエイティブカンパニー代表取締役社長。話題性と売れる物販や飲食のショッププロデュース。メーカーとデザイナーをディレクションした売れる商品開発。リアルな企業戦略プロモーションやマーケティングを多数手掛ける。デザインビジネスプロデューサーとして「デザイン」をビジネスとして成立させるプロフェッショナル。業界トップランナーのインテリアショップ・シボネと国立新美術館のスーベニアフロムトーキョーや全国多店舗展開のジョージズを創業。放送作家の小山薫堂率いるオレンジ&パートナーズと資本業務提携した。

天野:スタッフの働き方に、変化はありましたか?

谷尻:みんな明るくなりましたね。食堂スタッフが、「今日は何にしますか?」とオーダーをとって回るので、必ず同じときに食事をし始めるんです。

食事時には、一般の人も訪れるので、パブリックな場になります。写真家の若木信吾さんのオフィスも入っているので、若木さん選出の写真を飾っています。僕らにはオフィスであり、食堂ですけど、写真を見る目的で来る人にはギャラリーですし、コーヒー豆を買いに来る人にはコーヒーショップ、本を目的に来る人にはライブラリーと、来る人の目的によって名前が変わる。そんな設計事務所になりました。

次ページ 「手元のリアリティーが空間へと広がっていく」へ続く