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コラム

電通デザイントーク中継シリーズ

「ヒットさせてと言われても」山本宇一×天野譲滋×谷尻誠×石阪太郎【後編】

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手元のリアリティーが空間へと広がっていく

谷尻:3年前になりますが、「ONOMICHI U2」の企画とデザインに関わらせていただきました。県営上屋2号と名前のついた物流倉庫を改装して、サイクリスト向けの「HOTEL CYCLE」をつくりました。“サイクル”という名前には、自転車のサイクル、古い倉庫を生き返らせるサイクル、海と山に囲まれた心地よい季節のサイクルをかけました。

広島県から出された条件は「観光拠点になる施設」でしたが、観光客だけでなく、普段から町の人たちにも愛されるような場所にしようと考えて、パン屋、カフェ、レストラン、サイクルショップ、物販のショップなどを盛り込んで、建物の中に尾道の路地を再現しました。

石阪:「ONOMICHI U2」で印象に残っているのは、従業員の方が皆、尾道で最もステキな店舗で働いている!というプライドを持って働いておられるので輝いている。まさにシビックプライドだなと感じました。

山本:谷尻さんは、町や路地や人の暮らしを見て、それを自分できちんと受け取った上で、自分の主観でつくられているんですよね。ヒットのキーワード的なことを言えば、主観が本当に大事です。谷尻さんがつくったものは、主観の中で昇華させているからこそ、リアリティーが生まれている。

谷尻:僕が忘れられないのは、宇一さんが「CUBIERTA」のプロジェクトで、「屋上はレストランではなく、ピザ屋にすべきだ」と提案されたことです。大阪の人に屋上レストランは似合わないって。

石阪太郎
電通ライブ執行役員

1989年電通入社。入社以来、一貫してイベント、展示会、ショールーム、店舗開発、博覧会を手掛ける。コミュニケーションデザイン視点の空間開発、エクスペリエンス領域のクリエーティブディレクター的スタンスで多くの作品を残す。近年はテクノロジーの導入を通じて、本領域の次世代化を推進中。

石阪:それは、偏見じゃないですか?

谷尻:確かに、乱暴な言い方かもしれないけれど、奇麗な白い陶器の皿が並ぶよりも、ピザが乗ったアルミ皿が並ぶ方が、この街には似合うし、それをこの場所で実現することに意味があるとおっしゃったんです。

僕もそのとき、その方が誰もが気兼ねなく店に集まりやすいだろうなと、しっくりきました。どんな皿が置かれるかによって、テーブルやイスの在り方も変わる。インテリアデザインは、空間のマテリアルやスケールを決定するだけではなく、雰囲気をつくることでもあるんだなと思いました。

山本:そう、手元のリアリティーが空間へと広がっていくんですよね。僕がつくる店は50席から100席程度で、僕の主観にもぴったりはまっているわけです。その主観にマッチした人が、僕に店をつくってほしいと依頼してくれます。

それはマイノリティーではあるけど、それなりの量があるセグメントですよね。それを大手企業がそしゃくして、編集していくことで、流行になっていくのかもしれません。

石阪:われわれ広告会社は多くの人を対象にしなければいけなかったり、クライアントのコミュニケーション課題の解決を優先したり、山本さんとはそもそも微妙に方向感が違うのかもしれません。

けれど、おっしゃるように、クリエーティビティーの主観をどう編集するか、もう少し意識を持って取り組めば、宇一さんと一緒に仕事ができるようになっていくと思います。

<了>

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