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これからのマーケターに求められること~『シングル&シンプル マーケティング』発刊記念対談

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本間充さん著『シングル&シンプル マーケティング』(宣伝会議)の発刊を記念し、著者の本間さんと、日本航空 コーポレートブランド推進部 WEBコミュニケーショングループ長の山名敏雄さんの対談を行いました。

僕たちは意外とお客さんのことを知らないかもしれない

本間:以前僕が花王にいた時に、お客さんの実数は自分たちが思っているほど多くないのではないかという議論になったことがあります。たしかにデータを見ると、花王製品は1世帯平均23個ぐらいあるらしいのですが、はたして花王製品を指名買いしてくれている人がどれくらいいるのか。そんなに多くはないのではないかと。

山名:JALも頻繁にご搭乗頂いている方は出張でご利用の方で、毎月飛行機で旅行に行く方はそれほど多くありません。年に数回とか、数年に1回のお客さまが圧倒的に多いです。

『シングル&シンプル マーケティング』

本間:なぜこんな話をしたかというと、僕が書いた『シングル&シンプル マーケティング』は「僕たちは意外とお客さんのことを知らないかもしれない」ということが原点になっているからです。ですから「はじめに」では、「デジタルマーケターは、クリック率や、どのバナーがクリックされやすいとか、そういうことしか見ていなかったのではないか?マーケティングの基本は人を見ることなのに、デジタル広告から出てくる数に逃げていたのではないか?」という僕自身の反省文を書きました。

山名:僕らが最近社内で話しているのは、例えばバナーから入ってクリックして買っていただいたとしても、もしかしたらその方は最初から買うつもりで、バナーから来なくても他の方法で買ったかもしれないということです。そこを調べるために1カ月広告を止めて、どれくらい落ちるのか見たいのですが、実際には難しいでしょうね。

本間:それはロイヤルユーザーの残存率を見極められる、本当に意味のあることですよね。だけどマーケターの性としては、市場競争からドロップアウトはしたくないし、競合が出しているのにうちだけ止めるのはなあと思いますし。

山名:そうなんです。もうひとつ、これも昔から悩んでいることですが、自社サイトにたくさんあるページの中で、本当に購買の役に立っているページをどうやって判定したらいいのか。デジタルでは人の心まで読みにくいので。

ただ、最近はSNSを見ていると皆さんがどう感じているのか見えるようになってきました。ツイッターの書き込みなんて本音にあふれていて、今までわからなかったことに気づくことが多いです。

本間:同感です。この本のことを、デジタル広告の使い方を書いた本だと思っている人が多いけれど、デジタル広告のことはほとんど書いていません。じゃあ何を書いたかというと、デジタルで人を観察する方法です。マスマーケティングで大量のお客さんを見るようになり、お客さん一人ひとりを見られなくなっていた。だけどデジタルのテクノロジーが発達して、また一人ひとりのレコードを記録して、持てるようになってきた。そんな復活の感じがありますよね。

山名:コンビニのレシートの広告でさえ、レジの店員さんがお客さまの性別や年代を見た目で打ち込んでパーソナライズしていますからね。

本間:コンビニも含めて、お客さんをパーソナライズしてちゃんとターゲットを決めようという流れになってきているということですね。

JALさんはお客さんのマイレージプログラムのステータスによって、サービス内容を変えていますけど、これから、もっと細かく相手に合うサービスをやっていきたいと思っているのでしょうか。

山名:マイレージのデータを利用してどんどん上をめざしましょうという型はできていると思います。ただ、先ほど言ったように、頻繁に利用される方はほんの一握りで、圧倒的に年数回とか数年に1回のお客さまが多いわけです。そういう方たちは、搭乗履歴からお客さまを理解するのは難しいので、サードパーティクッキーなどを導入してお客さまのネット上の行動履歴と組み合わせて、どのようなことに興味関心があるのかを、試行錯誤しながら仮説を立てるということをようやく始めたところです。

本間:お客さんの生のデータを見られるようになり、お客さんの本当の姿を見ようと動きだしたということでしょうか。以前、洗剤と一緒に購入されている柔軟剤を調べたことがあるのですが、花王の洗剤を買うなら、柔軟剤も花王だろうと期待していたら違っていた。理由を調べたら、「他社の柔軟剤は香りがいいから」でした。その時、ああ、お客さんは柔軟剤をフレグランスだと思っているのだと、目から鱗が落ちたんです。このことがきっかけでお客様ペルソナを作ろうという話になりました。この本で人をよく観察しましょうと言っているのは、プロダクトアウトからマーケットインへと時代が変わってきているとつくづく思ったからです。

次ページ 「全員が同じマーケティングをする必要はない」へ続く