メール受信設定のご確認をお願いいたします。

AdverTimes.からのメールを受信できていない場合は、
下記から受信設定の確認方法をご覧いただけます。

×
コラム

NYから解説!日本企業のグローバルブランディング

ハリス次期米副大統領がみせた 多様な人種をも魅了する「勝利宣言」スピーチ

share

【前回コラム】「実はスピーチが苦手!?「勝利宣言」にみるバイデン流プレゼンス」はこちら

「グラスシーリング(ガラスの天井)を破った女性」それが女性初、黒人初、アジア系初の次期米副大統領となるカマラ・ハリス氏だ。11月7日に行われた勝利宣言でのスピーチでは、先人への想い、引き継いだ悲願、後世へのメッセージがその言葉と姿に、溢れんばかりに表されていた。

彼女のメッセージとストーリーの絶妙な可視化、聴衆や場を掴む話し方、そしてインパクトのあるキーワードを含めたスピーチなど、人の記憶に残るプレゼンスのポイントについて解説しよう。

11月7日に行われたハリス氏の勝利宣言。
出所/CNN

 

米国時間の11月7日、米国大統領選でバイデン & ハリスが当確。その瞬間NYCは歓喜の声で湧き上がり、拍手があふれ、車もクラクションを鳴り響かせた。
その夜に行われた勝利宣言で、バイデン氏に先駆けスピーチをしたのが次期副大統領となったカマラ・ハリス氏。女性初、黒人初、そしてアジア系初の副大統領となる。

登場した彼女はきりりとしたアイボリーホワイトのスーツに光沢の美しいホワイト・シルクのボウタイ・ブラウスという全身白の出で立ちだった。民主党をイメージさせる深い青を背景とした大きなステージでライトを浴び、全身白をまとった姿の彼女は、息を飲むほどの強い存在感だった。

サフラジェットへのオマージュの「白」

これまで公の場に登場する際の彼女は、ダークカラーの服で常にパンツスタイル。甘さは抑え、プレーンでトラッドだった。足元にはコンバースのスニーカーを合わせ、スポーティさも感じさせる装いだ。

しかし、この夜は全身白のパンツ・スーツ。その白も、彼女の暖色系褐色の肌をより一層引き立てる、品の良いアイボリー・ホワイト。ストレートなラインと上質な仕立てが潔さを感じさせるそのスーツは、NYに拠点を置くブランド、キャロリーナ・ヘレラのもの。

スーツと同色のアイボリーホワイトでシルクの光沢が美しいボウタイ・ブラウスは、彼女の肌や柔らかなラインを描く輪郭と目鼻立ちに映え、見事な組み合わせだった。

彼女の全身白の装いには意味がある。それはサフラジェット(女性参政権者)へのオマージュだ。彼女たちは行進する際に前身白のドレスを着ていた。視覚心理面においても世界共通で高潔さやまっさらな状態を意味し、色の中でも最も明度が高くまさに光を表すのが「白」だ。なお、アメリカで女性が選挙権を持つことができるようになったのは1920年で、今年でちょうど100年を迎える。

また、初めての女性、有色人種(黒人とアジア)の副大統領候補ということで、“何をやっても叩かれる”という可能性も考慮したことだろう。細心の注意を払い、ファッション的かつフェミニンすぎる傾向は排除しつつも、女性としての品位と誇りを示していた。

落ち着き、深みのある声と、リズミカルな口調

ハリス氏の声は落ち着きと深みがあり、そこに迫力が加わっていた。彼女の少しだけ鼻にかかったような声が、硬くなりがちなこの手のスピーチの緩和剤ともなっていた。また、話し方のリズムやイントネーション、話し方と体の動きのリズムとが合わさり、聞き手をどんどん引き込んでいった。

特筆すべきは話す「スピード」「言葉選び」「間」の取り方だ。これは、まさに1人でも多くのアメリカ国民に伝わる様にとの配慮である。

彼女の勝利宣言スピーチのスピードは非常にゆっくりで、10分少々のスピーチの中でのワード数は946ワード。1分間に100ワード以下なのだ。一般に英語のスピーチは、1分間に120~150ワードと言われている。120ワードだと聞き手にはゆっくり感じると言われているところを、それよりも20ワードも少ない。非常にゆっくり話されていたことが明らかだ。そして、可能な限りの平易な言葉を使っていた。その上、センテンス毎に十分すぎる位の間をとり、噛み締める様に伝えていたのだ。

特にアメリカの様に人種が多様で移民も多く、英語が母国語でない人も非常に多い場合、話すスピードを普通にして、難しい言葉を使ってしまうとメッセージの伝達率は一気に低くなる。さらに、十分な間を開けずに喋り続けると、ほぼ伝わらないだろう。

あの様な大舞台でのスピーチは、興奮したり焦ったりで早口になり、文章の切れ目なくどんどん次の言葉を話し続けてしまう人も多い。十分すぎるほどの間隔をとることは、下手をすれば間抜けに聞こえてしまうため、非常に勇気のいることでもあるからだ。

それにもかかわらず、ハリス氏は不自然さをまったく見せず、人々が歓声を沸かせたタイミングでもう一拍引っ張り、厳かに話し始めた。自らのスピーチに聴衆を巻き込んでいく渦を作る技術がなんとも巧みだ。あの大舞台でバイデン氏よりも先にスピーチをする大役を任され、あの満面の笑みで余裕を見せながら、真剣だけれど四角四面ではない、骨太なスピーチができるのは、ただ単に「スピーチがうまい」を超えた力だ。

すべては、移民やマイノリティ、老若男女すべて、1人でも多くのアメリカ国民にそして世界にメッセージを伝えようという意思の現れだろう。

特にハリス氏の場合、自身が移民の子どもとして生まれ育った背景からのマイノリティへの理解、これからのアメリカの未来をつくる子どもたちへのメッセージということを強く意識していたのだろうと思える。

次ページ 「ヒラリーの悲願を引き継ぎ、それに応えたメッセージ」へ続く