元キリンのブランドマネジャーが長崎の離島で挑む ジンづくりで地域の価値創造

キリンビールで「一番搾り」「氷結」などのヒット商品を手がけてきた門田クニヒコさんと小元俊祐さんが、五島列島の福江島で開業したクラフトジンの蒸溜所「五島つばき蒸溜所」(長崎県五島市)。アクセス困難な半泊という土地には、潜伏キリシタンの祈りが息づく歴史と、島の人々の温かな受け入れがありました。大量消費商品の世界で培った哲学を、ゼロからの酒づくりにどう活かすのか。シェア争いではなく、地域の「新しい価値をつくる」という物づくりのかたちが見えてきました。
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門田クニヒコ氏

五島つばき蒸溜所
代表取締役 / 蒸溜家

28年間、酒類メーカーでマーケティング、商品開発に従事。数々のヒット商品を開発(キリン極生、氷結ストロング、一番搾りフローズン生、47都道府県の一番搾り)。五島つばき蒸溜所では、経営全般およびマーケティング、製造、業務全般を行う。三国丘高校/横浜国立大学卒業。

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小元俊祐氏

五島つばき蒸溜所
取締役/マーケティング・ディレクター

30年以上にわたってお酒の仕事に関わり、ウイスキー、スピリッツ、RTD、ワインの商品開発や広告宣伝など幅広くマーケティング業務に従事。薔薇のバーボン「フォアローゼズ」のブランドマネジャーとして日本市場を開拓。五島つばき蒸溜所ではマーケティング、広報、海外関連の業務を中心に行う。

離島に移住して蒸溜所を開業

━━キリンビールを飛び出し、クラフトジンづくりを始めたきっかけを教えてください。

門田:キリンビールでは50歳になると「ライフプランセミナー」という研修を受けるんです。早期退職制度の説明も含まれていて、会社としては「そろそろ次の人生を考えろ」というメッセージだと受け取っています。自分の年表を作って、入社から今までの出来事と感情の起伏を可視化していきます。

それを書いてみて、「ああ、やっぱり自分はお酒が好きでキリンビールに入ったんだな」とか、「ものづくりやマーケティングが好きだったな」と改めて気づいたのです。でもそれも、「あと数年で終わっちゃうかもしれない」と思ったのが、きっかけでした。それで小元さんに、「自分たちで酒をつくりたい」と相談しました。

小元:僕はちょうどキリンビールを辞めるタイミングで、次のことは何も決めていませんでした。お酒は30年やってきて、やり尽くした感もあった。でも門田くんからの話は、今までにない新しい挑戦ができると思ったのです。メーカーとして制約の中で作るものではなく、自分たちの理想を形にできる。それが魅力でした。

それに、門田くんと一緒にやった仕事はほとんどうまくいっていて、成功確率が高い(笑)。誰とやるかも大事で、最初から「これはうまくいく」と思えたのです。不安はまったくなかったですね。

━━実際に動き出したのは、いつ頃からでしょうか。

門田:2020年3月に相談してすぐに動きたかったのですが、コロナ禍もあって候補地探しのための全国各地への移動が難しく、しばらく待機していました。2021年4月にようやく五島に行けるようになって、他の候補地も含めて視察しました。5月には五島にしようと決めて、クラフトジンの味や香りを決める重要な役割のブレンダーの鬼頭英明さんにも声をかけて、9月に銀行から融資を得て、10月に退職届を提出。2022年2月に最終出社して、4月に移住、12月に開業しました。

写真 人物 五島つばき蒸溜所の取締役で製造・開発を担当するブレンダーの鬼頭英明氏

五島つばき蒸溜所の取締役で製造・開発を担当するブレンダーの鬼頭英明氏

━━五島列島の福江島にある半泊(はんとまり)を選んだ決め手はなんだったのでしょう。

門田:お酒って、土地の風土や文化と結びついているものです。五島にはカトリック教会群の世界文化遺産や弘法大師・空海に結びつく歴史があって、風景にも人にもその文化が染み込んでいる。島全体が物語を帯びているように感じました。

特に、半泊はとんでもない場所です。険しい小道が続き、Googleマップのレビューには「死ぬかと思った」と書かれているほど(笑)。地元の人にも「観光客も従業員も来ない」と反対されました。でも小元さんは最初から「ここがいい」と言っていて。

小元:ここで酒をつくれば、絶対にいいものになる、と確信していました。こういう場所だからこそ、価値がある、と。今では毎日7〜8人が蒸溜所を訪れてくれます。

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細い山道をぬけてやっとたどり着く、小さな入り江に五島つばき蒸溜所がある。蒸留所は毎週土曜日に見学ができる。ジン専用蒸留器は、世界最高峰のメーカー・アーノルドホルスタイン社によるハンドメイド。椿のタネをモチーフにしたチャンバーを持つ。またステンドグラスは、五島つばき蒸溜所のロゴや福江島の風景を彩る。

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