パーパスに悩みを持つ企業の実態と目指すべき姿
東証プライム上場企業においてパーパスを掲げる企業数は、2022年の91社から2025年には337社(1634社中)へと右肩上がりで増加している。また、日本経済社の調査によれば、パーパス策定企業のうち実践に向けた取り組みについて「特に取り組んでいない」と回答した割合は4.3%であり、多くの企業が定めて終わるのではなく、具体的な取り組みを進めている。
パーパス策定の効果も実証されつつある。朝日広告社の調査では、パーパス策定企業は非策定企業と比較して、売上高・営業利益率ともに約1.6倍高い傾向を示した。
しかし、デロイト トーマツがさまざまな企業と対話する中で聞き取った実態は異なる。ある企業のブランディング担当者は「グループとしてのパーパスを掲げたが、グループ各社とどのように連携して実行するかが具体化できておらず、推進しきれていない」と語る。
「パーパスが機能している状態」を達成するために重要な「内的・外的一貫性」
デロイト トーマツは、「パーパスが機能している状態」を2つの要素で定義する。第一に「内的一貫性」。パーパスが事業戦略・組織文化と接続し、高い実行力を持つ状態を指す。第二に「外的一貫性」。ステークホルダーごとに適切なパーセプション(知覚、認識)を獲得し、期待を醸成することで成長効率を高めている状態だ。投資促進、共創促進、購買促進につながる。
この定義に照らすと、パーパス、事業戦略、組織文化、パーセプションの4要素が一貫性を持って接続している状態が理想となる。しかし実態は、これらの要素間に“ひずみ”が生じているケースが多く、それが企業にとっての課題になっているという。同社はパーパスと各要素の“ひずみ”を「パーパスバグ」と呼ぶ。企業との対話や調査を通じて、これを6つの類型に整理した。
パーパスを形骸化させないための6つの類型と処方箋
パーパスを形骸化させないための6つの類型一覧
1つ目は「化けの皮」型。魅力的なパーパスや事業コンセプトを掲げるものの、実力・成果が伴っていない状態を指す。投資家の期待を集めて資金調達を実現するが、実態の戦略や組織力が不十分で成果が出ず、株価急落を招くケースが典型だ。処方箋としては、経営者が目指す姿と戦略を内外に丁寧に開示する「自己開示型コミュニケーション」が求められる。IRなどの機会に限らず、日常的な発信が必要だという。
2つ目は「言葉足らず」型。パーパスがどの企業にも言えるような抽象度にあり、長期戦略の指針にならず、組織の求心力に欠ける状態。外部のステークホルダーも当該パーパスを認識せず、関心を持たず、共感や賛同の対象になっていない。
Design & Brandマネジャーでコピーライターとしての経歴も持つ鵜川将成氏は、言葉足らず型の原因として、「サステナビリティ」といった「流行りのワード」の安易な使用や、「合意形成の過程で全方面に配慮した結果、言葉が丸くなりすぎているケース」を挙げた。処方箋は、未来視点での機会・リスクを棚卸しし、そのうえでパーパスを再解釈すること。個人・部門別に解像度を高めることが有効だという。
デロイト トーマツ Design & Brand マネジャー 鵜川将成 氏
3つ目は「絵空事」型。パーパスと現在地の接続が不透明で「絵空事」と思われ、戦略や組織に昇華できない状態。外部のステークホルダーにとっても言行不一致感が強く、「お飾り的」なパーパスといった見られ方となる。既存部門と新規部門の分断が典型的な特徴。活躍層ほどパーパスに冷ややかな目線を向け、株主が長期成長ストーリーの蓋然性を指摘する。
鵜川氏は「表現としては完成されているが、足元を見たときに遠すぎてどう踏み出していいか分からない。社員が置き去りになっている」と説明。策定プロセスの段階で社内アンケートやワークショップを実施し、社員が感じている自社の現状を理解するプロセスを踏むことが重要だという。処方箋としては、パーパスと現状の間を埋めるシンボリックな取り組みを開発・実行する「補助線的シンボリックアクション」が有効。目指す姿への布石を可視化することで、絵空事感を払拭できる。
6つの「パーパスバグ」の1つ、「誰やるの」型
4つ目は「誰やるの」型。パーパスを基に戦略策定するも、組織の共感・納得を得られず、実行力に欠ける状態だ。高尚なパーパスと現状の組織実態のギャップから、外部ステークホルダーの確かなパーセプション構築に至らない。既存部門と新規部門の分断、営業・セールスの立場が強い(短期成果を優先せざるを得ない文化が強い)といった傾向が見られる。
Design & Brandディレクターの額田康利氏は「いくら素敵なパーパスを作っても、『自分ごと化』しないと全く意味がない」と指摘。「パーパスと事業戦略はブリッジングされているが、そこから先のパーセプションや組織文化に行く架け橋ができていない」と語る。処方箋としては、両利き経営(深化/探索)を志す次世代層を部門横断で招集し、縦割組織を横断するプロジェクトにより実行力を高める「部門横断での次世代ヒーロー化」が有効だ。
デロイト トーマツ Design & Brand ディレクター 額田康利 氏
5つ目は「知る人ぞ」型。パーパスをもとに戦略推進・組織文化変革を進めて一定の成果を実感している一方、外部ステークホルダーのパーセプションは旧態依然のままで、将来に対する正しい成長期待を得られない状態だ。事業ポートフォリオの変革に取り組む(多角化・領域転換、グローバル化など)企業や、大型の広告投資などゆえに根強い企業イメージがある企業に多いという。処方箋としては、事業変革の先に実現したいパーセプションを再構築し、多角化する各事業のシナジーや意義を浸透させる「パーセプションの再構築・浸透」が求められる。
Design & Brandシニアマネジャーの三宅洋基氏は「顧客という視点だけではなく、投資家からどう見られているかも非常に重要になってくる」と指摘。例えば、「車屋さん」と思われるのか、「未来を作るモビリティーカンパニー」と思われるのかによって、投資家の目線は大きく変わるという。「パートナー企業から選ばれるかどうかにも大きく関係してくる」と、パーセプションの重要性を強調した。
デロイト トーマツ Design & Brand シニアマネジャー 三宅洋基 氏
6つ目は「ゆでがえる」型。「パーパスをもとに戦略推進・組織文化構築を進め、外部のパーセプションも一致している」と誤認しており、実際には組織に綻びが生じている状態。特に経営層ほど誤認していることが多いという。創業からの社是や理念の影響力が強く、「自社はパーパスに基づく強固な組織文化を構築している」という自負がある特徴があり、結果的に優秀な次世代層が離職する、といった傾向が見られる。
額田氏は「空気を読まない新人たちの言葉や言動を無視したり、黙らせたりすることは、ゆでがえる型に近づく要素」と指摘した。処方箋としては、ソーシャルリスニング・内部調査などで「パーセプション実態」を把握し、時代的要請と自社らしさの背反解消に努めることが重要だという。
ブランドを経営視点で捉える難しさ
パーパスに代表されるブランドの議論は表現や手法論に閉じるのではなく、経営戦略の根幹として位置づけられることが望ましい。一方で、「ブランド」が多義的な言葉であるがゆえに、思い浮かべる意味合いが揃わず、表層的な議論に終始してしまうケースも見受けられる。
その際、重要となるのは「経営視点と表現視点の両輪をもって、自社のブランドを捉え直し、戦略・組織・顧客体験へと一貫して落とし込むこと」であると三宅氏は語る。
そのうえで、その重要な役割を担うのはコーポレートブランド・コミュニケーションを担う人々であり、「ブランディングの鍵を握る皆様を、コンサルタントとクリエイターが深く協働し、ブランドを経営視点で捉える支援体制を整えたDesign & Brandチーム一体となり、力になっていきたい」と話し、講演を総括した。

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合同会社デロイト トーマツ
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シニアマネジャー 三宅 洋基
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コンサルタント 渡辺 樹
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