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広告において音楽が担う本当の役割
なぜ広告には音楽が使われているのか。この問いはあまりにも当たり前で、普段意識されることは少ない。しかし現場を見ていると、日本の広告において音楽が「ただ乗っているだけのBGM」で終わってしまっているケースは決して少なくない。
「感情に訴えるため」「映像の表現力を高めるため」これらはどれも正しい。だが、それだけでは現場で適切な判断はできない。何を選び、何を捨てるのか。その基準にはならない。
音楽がなかったらどうなるか。無音の広告を想像し、そこに音を一つずつ加えていくと、音楽が担っている役割が逆算的に見えてくる。
まず明確になるのは「区別化」である。広告は前提として、集中して視聴されない。スクロールされ、流し見される存在だ。そのため、音がない状態では作品の切り替わりは極めて曖昧になる。音楽は「ここから一つの作品が始まる」というフレームを作る。つまり、「曲」という時間単位によって、広告の境界を定義している。
この設計が弱い広告は、どれだけ映像が良くても印象に残らない。多くの場合、音楽は「最後に乗せる要素」として扱われるが、そのこと自体が問題なのではない。問題は、その段階に至るまでに音楽が意思決定の対象として扱われていない点にある。設計に関与しないまま配置された音楽は、空間を埋める以上の機能を持ちにくく、結果として広告の境界が曖昧になりやすい。
ノイズになるか、個性になるか
次に「差別化」である。同じ枠の中で流れる複数の広告を想像したとき、音楽が似通っていれば、表現は一気にフラットになる。音楽は単なる装飾ではなく、作品の個性を決定づける要素だ。
ただしここで重要なのは、「違う音を使うこと」自体に価値があるわけではないということだ。ターゲットやブランドの文脈から切り離された“新しさ”は、差別化ではなくノイズになる。実務的には、「何が違うか」ではなく「なぜそれなのか」を説明できる状態であることが重要になる。
この「なぜ」を成立させるのが「意図」である。すべての広告には、ターゲットと目的がある。年齢、文化、ライフスタイル、経済的背景。それらを踏まえた上で、どの音楽が選択肢に入り、どれが排除されるのかが決まる。
例えば、40〜50代の富裕層の日本人男性に車を売る広告と、20代のアメリカ人大学生にモバイルサービスを売る広告では、検討される音楽のレンジは根本的に異なる。ここまでは多くの人が理解しているだろう。
問題はその先だ。「なぜこの曲でなければならないのか」。この問いに対して、言語化されたロジックを持っているかどうか。ここが曖昧なまま進んだプロジェクトは、最終的に“なんとなく良さそうな音楽”に収束していく。