ファンへの信頼が生んだ「余白」と「揺らぎ」『書簡型小説「二人称」 ヨルシカ』の装丁デザインを紐解く

2月26日に講談社から発売された『書簡型小説「二人称」 ヨルシカ』。封筒を開封しながら手紙を読むことで物語を追う “体験型文学” に込められたこだわりを、装丁の担当者に聞いた。
(本記事は『ブレーン』2026年6月号からの転載記事です)

講談社は2月、アーティストのヨルシカによる『書簡型小説「二人称」ヨルシカ』を発売した。作詞・作曲を担当しているn-bunaさんが原案・執筆を手がけた体験型小説で、32通の小封筒と約170枚の原稿用紙と便箋からなる「手紙」、大封筒1枚で構成される。

CDやDVDを含まない、書籍のみの作品はヨルシカにとって初の試み。装丁は2019年からヨルシカのアートワーク全般を担当しているDMYM/No.734さん(OTOIRO)が手がけた。制作にあたりn-bunaさんからは、「手書きの原稿用紙を手紙として用いた往復書簡」というイメージが共有された。重視したのは、作品が持つ「揺らぎ」。たとえば、外箱にデザインしたタイトルの書体は「二」が手書き、「人」は欅明朝Oldstyle、「称」は欅角ゴシックOldstyleと一文字ずつ異なる。

「揺らぎ」は、本文となる原稿用紙の筆跡にも表れている。主人公の男の子の文字と手紙の相手である「先生」の赤字はそれぞれ異なる書き手が担い、個性を表現した。原稿用紙には「b7バルキー」、小封筒には「色上質(白)」を選定。市販品に近い質感がありながら、より手触りの良い紙を選んだ。「縦書きの便箋用の封筒は通常縦長ですが、本書で採用した封筒は横長のもの。これは大量の紙を出し入れするストレスを軽減するためです」。

手紙を納める外箱は書店に平積みにされた時のインパクトと、ファンがアート作品として部屋に飾ることを想定し、315ミリ×315ミリという大きめのサイズに。箱を開ける爪の部分にアーティスト名を表記するなど、ファンがグッズとして楽しめる要素をちりばめつつも、読んだ後に想像力を膨らませる余白をもたらすために、イラストなどは用いずシンプルに仕上げた。

ファンからは過去作で使われていた書体との類似性や、楽曲の世界観に影響を与えた文学作品との関連性についての感想が見られた。「読者の反応からは、登場人物が実際に存在しているように感じ取ってくれている印象を受けました。シンプルでもファンが考察を深めてくれるという信頼関係があるからこそ実現したデザインです」。

advertimes_endmark

この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

この記事を読んだ方におススメの記事