元タレントの性暴力に関する一連の問題では、同社が1980年代から掲げてきたスローガン「楽しくなければテレビじゃない」にも批判が集まった。新しい企業理念は当時のスローガンがもたらした企業カルチャーへの反省が読み取れる。同社はこの理念を、「対外的なキャッチフレーズ」ではなく、「自らに掲げる誓い」と位置づけている。
加えて、持株会社フジ・メディア・ホールディングス(FMH)は同時に、IP・コンテンツの多角展開やグローバル展開を軸としたグループビジョンも打ち出した。
今回の理念刷新を、企業の「言葉」と「経営戦略」の両面からどう読み解くべきか。企業ステートメント制作を手掛けるクリエイティブディレクターの蛭田瑞穂氏、メディア研究者の松崎泰弘・大正大学教授に聞いた。
「社会への約束」より先に、“自分たちの意志”を立て直す
今回の理念について、フジテレビは「『楽しくなければテレビじゃない』に代わるものではなく、自らに掲げる誓い」と説明している。
この点について、蛭田氏は「方向を見失った企業がまず必要とするのは、“社会への新しい約束”より先に、“自分たち自身の意志”を立て直す言葉だ」と指摘する。
蛭田氏は、ソニーグループのパーパス「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」を例に挙げる。これは、赤字が続き会社が方向性を見失っていた時期に、当時CEOだった平井一夫氏が設立趣意書にまで立ち返り、「感動」という言葉を再発見したことから生まれたものだという。
「企業が方向を見失ったときには、社会や顧客に価値を届ける言葉の前に、まず企業の意志を立て直す言葉が必要になることがあります。フジテレビが今回の企業理念を『自らに掲げる誓い』と位置づけたことも、同様の選択であると感じます」(蛭田氏)
また、今回フジテレビが最上位概念として据えた「Corporate Question」にも注目する。
「その楽しさは、何のためにある?」という問いについて、蛭田氏は「楽しさは大前提としてあるが、そのためには何をしてもよいわけではない、という自省が読み取れる」と分析。そのうえで、「この問いは、企業理念という高次の言葉でありながら、『この企画は何のためだっけ?』と現場でチェック機能を果たす言葉にもなっている」と語る。
フジテレビが新たに掲げたCorporate Question(自らを戒める問い)
さらに、「Corporate Message」や「Corporate Slogan」を掲げる企業は多い一方、「Question」を最上位概念に置く例は珍しいと指摘。「一般的なMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の形式にとらわれず、独自の体系を構築している点は、おざなりな理念刷新に留まっていない証だ」と評価した。
理念は“額縁の言葉”で終わるのか
一方、企業理念の刷新は、言葉だけで終わるケースも少なくない。
蛭田氏は、京都みやげで知られる「よーじや」のコーポレートスローガン「みんなが喜ぶ京都にする」の策定に携わった経験を振り返る。コロナ禍で危機感を抱いた同社は、「あぶらとり紙」のイメージから脱却し、雑貨や飲食など日常使いの商品・サービスへと事業を広げ、業績を大きく回復させた。
