パーパスを掲げる企業は多いが、事業成長や組織の行動につなげる過程で課題を抱える場合も少なくない。5月26日開催の「コーポレートブランディングカンファレンス」(宣伝会議主催)に登壇したFICC(エフアイシーシー)取締役の戸塚省太氏が、ブランドのパーパスを起点に社会と事業をつなぐ価値創造の方法を解説。同社独自のフレーム「ビジョンラダー®」と「ブランド・イノベーションモデル(価値創造の方程式)」について、食品メーカーやICT企業の支援事例を交えて説明した。
組織の分断を越えたブランドの共通言語
多くの企業では、「経営戦略と事業戦略がつながっていない」「ブランド戦略とマーケティング施策が別々に動いている」「短期と中長期の戦略が接続されていない」「部門やレイヤー間で戦略理解に差がある」といった “分断” が生じている。戸塚氏は、こうした組織内の分断が、ブランド戦略の実行力を弱める要因になっていると指摘する。
FICC 取締役 戸塚省太 氏
その背景にあるのは、ブランディングとマーケティング、インターナルとアウター、そしてブランドの動機と組織の動機との間にある分断だ。パーパスやビジョンが言葉として掲げられていても、それが事業や商品開発、マーケティング施策、さらには社員一人ひとりの行動と接続していなければ、組織を動かす力にはなりにくい。
FICCでは、この断絶を埋めるための方法論として「ビジョンラダー」と「ブランド・イノベーションモデル(価値創造の方程式)」を体系化している。
ビジョンラダーは、ブランドの過去・現在・未来を捉え、自社だからこそ掲げることができるパーパスと、持続的に求められるブランドの姿を導き出すためのフレームワークだ。ブランドが願う社会の姿を、ブランドが創造する市場として捉え、その実現に向けた大義や独自の機能・資源、さらには事業と組織の動機の源泉となる「イデオロギー」までを整理していく。
戸塚氏は、ビジョンについて「理想」を掲げるだけでは不十分だと説明。ブランドが願う社会の姿を、単なる理念にとどめるのではなく、ブランドが創造する市場として捉え、その市場創造に向けて、どのような社会変化や業界変革を起こしていくのかを明確にする必要があると話した。
また、ブランドの資源は技術や商品だけではなく、企業の歴史や、これまで継続してきたブランドアクションも含まれる。それらを見直すことで、自社ならではの大義や独自機能を明らかにし、パーパスを事業や組織の動機へと接続するブランドの軸を導き出していく。
企業・事業・商品で異なるブランドの目的
戸塚氏は、同じ企業として理念を共有していても、企業、事業、商品・サービスのどのレイヤーでブランドを語るかによって、その目的や役割は異なるとも説明した。
経営レイヤーでは、今後獲得する資源も含めた長期視点で、市場の拡大や創造を考える。一方、商品・サービスのレイヤーでは、今ある資源を活用し、足元の目標達成に向けてブランドを捉えることが多い。
このように、資源と時間軸の捉え方が変われば、ブランドが向き合う市場の捉え方も異なっていく。そのような状況の中で、組織内で共有し合う目的こそが「イデオロギー」だ。社会や業界の何を変革し、ビジョンとしてどのような市場をつくりたいのかという動機で接続されて初めて、ブランドは全社の共通言語として機能する。
FICCでは「ビジョンラダー」によってブランド戦略を導き出すとき、経営資源となる「ブランド・イノベーションモデル(価値創造の方程式)」も導き出すことを重要視している。これは、ブランドのパーパスを起点に、社会や業界の変化の中で、ブランドがどのような価値を生み出してきたのかを捉え、普遍的な価値創造の方程式を導き出す考え方だ。
分析では、社会や業界のマクロ変化と、ブランドが持ち続けてきた信念やナラティブを、過去・現在・未来の時間軸で重ね合わせていく。重要なのは、成功を特定の個人や偶然に帰するのではなく、その時代にどのような価値創造が起きていたのかを「社会につながる再現可能な知」として捉え直すことだ。
同社は、このモデル化を通じて、企業が自社の強みや信念を、時代を超えて価値を生み出す、大義に基づく経営資源として再解釈する支援を行っている。
食品メーカー・ICT企業の事例
講演では、ブランド・イノベーションモデルを活用した2つの支援事例を紹介した。
1つ目は、国内大手食品メーカーの事例だ。その経営アジェンダは、これからも生活者や社会の変化を捉えながら、持続的に新しい食文化を創造していくための開発力を高めることだった。
この事例では、同社のルーツともいえる代表的な商品に着目した。その商品が、どのような時代背景や生活者課題の中で生まれ、どのような価値創造の考え方によって社会に受け入れられていったのかを紐解いていった。
さらに、その後、企業の歴史の中で時代を越えて生まれたさまざまな代表的な商品についても、同じ視点から再解釈を行った。個別の商品を単なる成功事例として振り返るのではなく、それぞれに共通する価値創造の構造を読み解くことで、同社が一貫して大切にしてきた開発思想や判断基準を見出していった。
つまりこのケースは、企業の原点となる商品から価値創造の方程式を見出し、その方程式によって、その後の代表的な商品や事業の歩みを再解釈していった事例である。
FICCは、これまで暗黙知となっていた商品開発の強みや価値創造の考え方を、今後の事業開発・商品開発にも活かせる経営資源として言語化した。
もう1つは、長い歴史を持つ国内大手ICT企業の事例。テーマは、社会や産業により大きなインパクトを持つ企業への進化だ。
この事例では、企業の中ではビジネスの規模はまだ大きくはないが、未来への経営アジェンダを体現している新領域の事業に着目した。既存事業の延長線上だけではなく、これからの社会や産業に対して、同社がどのような価値を生み出そうとしているのか。その新しい挑戦の中に宿る信念を起点に、価値創造の方程式を見出していった。
そのうえで、FICCは経営層や事業をリードしてきた方々へのヒアリングを重ねた。未来のテーマを体現する新領域だけを見るのではなく、これまでの長い企業の歴史の中にあるエピソードを引き出しながら、「価値創造の方程式」により、創業期のエピソードまでさかのぼって同社の歩みを紐解いていった。
その結果、社会や産業の構造が変化する中でも、他社の潮流とは異なる独自のアプローチを選び続けてきた背景に、同社が一貫して持ち続けてきた信念があることが見えてきた。
つまりこのケースは、未来の経営アジェンダを体現する新領域から価値創造の方程式を見出し、その方程式を手がかりに、過去の歴史や創業期のエピソードを再解釈していった事例である。
FICCは、未来に向けた新しい挑戦と、これまで企業が大切にしてきた信念とをつなぎ、社会・産業の変化の中で同社がどのように価値を生み出し続けていくのかを、向き合う企業の経営アジェンダに最適化された「ブランド・イノベーションモデル(価値創造の方程式)」として支援している。
「価値創造の方程式」に必要な6つの観点
FICCは、ブランド・イノベーションモデルを導く際に重視するものとして、6つの観点を示している。
1つ目は、社会や業界を見つめるブランドの信念に根ざし、ブランドのナラティブを体現していること。2つ目は、企業やブランドの成長に向けた経営アジェンダに最適化されていること。3つ目は、組織の中から確信を得られる、自分たちならではのモデルであることだ。
さらに、組織全体の主体性とイノベーションを引き出す「問い」を生むこと、ブランドが願う理想の世界を市場として捉える野心的なビッグピクチャーと併存していること、そして時代が変わっても普遍的な価値創造の方程式として機能することも重要だという。
社会構造や価値観を分断せず、ブランドアクションを導く
講演の終盤では、価値創造の方程式を、社会に対する具体的なアクションへとつなげていく考え方にも触れた。
戸塚氏が紹介したのは、FICCがブランドマーケティングの専門性をもとに創造した「ソシエタル・レンズ(Societal Lens)」と呼ぶアプローチだ。これは、ブランドのパーパスが社会の文化になる姿まで見据え、社会構造や文化、価値観をレンズのように重ねて見つめながら、社会につながるブランドアクションを導く考え方である。
今回紹介した「ビジョンラダー」や「ブランド・イノベーションモデル」も、この「ソシエタル・レンズ」のアプローチの中で、ブランドや社会の力になる知識として位置づけられている。
ここで重要なのは、ブランドのビジョンや戦略、実行施策を別々の工程として切り分けないことだ。社会構造や文化、価値観の変化。ブランドの歴史の中にある人の想い。そして、これから社会に対して生み出していきたい価値。それらを分断せず、ひとつの文脈として重ね合わせて捉えていく。
つまり、ブランドパーパスや価値創造の方程式は、定義すること自体が目的ではない。それらを起点に、ブランドが社会に対してどのような態度を取り、どのような行動を生み出していくのかまで見据えることが重要になる。
戸塚氏は、社会の変化を外部環境として眺めるだけではなく、ブランド自身の想いや信念を持って向き合い、オーナーシップとリーダーシップを持ってアクションへつなげていく必要性を語った。
FICCでは、ブランドマーケティングに関する知見を共有する「FICCブランドマーケティング ナレッジ共有会」を開催しています。本記事で紹介した「価値創造の方程式」についても、より詳しくご紹介しています。
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※「ビジョンラダー®」はFICCの登録商標であり、ブランドマーケティングの専門知識とリベラルアーツの哲学により、FICCが開発したフレームワークです。
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