多様な人材の獲得・定着が企業の重要課題となる中、育児や介護、不妊治療など、社員が直面するさまざまなライフイベントを企業がどう支えるかが問われている。一方、既存の両立支援制度では十分に想定されてこなかったライフイベントもある。その一つが「里親」だ。
こども家庭庁委託事業として、「企業における子育てサポート研究会」(受託事業者・朝日新聞社アカウントソリューション本部)が7月30日に開催された。社会貢献と企業価値向上を両立する「次世代の子育てサポート」をテーマに里親制度に着目。大同生命保険、エレコム、JR東日本など11社の人事・労務担当者らが参加し、制度そのものだけでなく、社員が実際に利用できる職場風土のつくり方まで意見を交わした。
目次
約4万2000人が実親と暮らせず
冒頭、こども家庭庁支援局家庭福祉課の石田有介課長補佐が、里親制度の現状を説明した。
国内には、虐待や養育放棄、経済的な事情、親の病気などによって、実の親のもとで暮らせないこどもが約4万2000人いる。こうしたこどもを社会全体で育てる「社会的養護」の一つが里親制度で、自らの家庭にこどもを迎え入れ、ともに生活する仕組みだ。石田氏は、こどもの健全な成長には、安心して頼ることのできる特定の大人との継続的な関係が重要だと説明した。
こども家庭庁 支援局家庭福祉課 課長補佐 石田有介 氏
一般の子育て家庭では共働きが約7割を占めるとされ、実際にこどもの委託を受けている里親家庭でも約半数が共働きだという。政府による制度の認知拡大や里親への支援だけではなく、働きながら里親としてこどもを育てるためには「企業の理解や協力も欠かせない」と石田氏は話した。
制度をつくる前に必要な「想像力」
第1部では、月刊総務 戦略総務研究所所長の豊田健一氏が登壇した。
豊田氏は、人口減少・人材不足が進む中、企業にとって重要なのは、人材を「採用する」「定着させる」「活躍してもらう」ことだと指摘。その中でも、育児や介護などのライフイベントは離職の大きな契機になり得るとした。
一方、制度を整えるだけでは不十分だ。豊田氏は、社員が長く活躍し続けるために必要な条件を「イマジネーション(想像と理解)」「最大限の選択肢」「使える風土(環境)」の3つに整理した。
月刊総務 戦略総務研究所 所長 豊田健一 氏
まず、人事・労務部門が育児や介護、不妊治療、更年期、里親など、外から見えにくい事情を想像し、当事者が抱えるハードルを理解する。その上で、時間単位休暇やフレックス、リモートワーク、特別休暇など複数の選択肢を用意する。そして最後に、それを実際に利用できる職場風土をつくる必要がある。制度があっても「使えば評価に響く」「上司がいい顔をしない」と思わせる環境では機能しないとした。
里親は、そうした企業の「包摂力」を測る題材にもなる。「明日からこどもを預かってほしい」と突然打診された社員がいたら対応できるか。里親になるための研修に通うため、定期的に休みたいと申し出たとき、現場の管理職は応援できるか。現在の育児制度は、里親にも利用できる内容になっているか。豊田氏は、これまで想定してこなかったライフイベントへの対応力を点検することが、介護や治療などさまざまな事情を包摂できる組織づくりにもつながるとした。
「里親専用制度」をつくらず、既存制度を広げたピジョン
続いて、ピジョン 人事部人事労務グループ マネージャーの渡辺雪香氏が、同社の両立支援について紹介した。渡辺氏は2004年に入社し、採用・研修、DE&I、人事制度構築、働き方改革、健康経営など、人事業務全般を経験してきた。
ピジョンの人事部が掲げるのは、「社員一人ひとりが自分らしく輝く会社にする」ことだ。両立支援については、「誰もが仕事とプライベートを両立できる風土醸成」を土台に、ライフイベントがあっても安心して仕事ができ、キャリアとの両立を実現できる環境を目指す。その際に重視するのが、「社員の声を活かした生きた制度」をつくることだ。
同社では育児休業取得率が男女とも100%で、2025年の男性社員の平均取得日数は45.5日。目標管理制度の中で「育児レポート」を提出し、その評価を賞与に反映する仕組みも設けている。「育児から学んだことを仕事に活かす」という考え方だ。
里親支援につながっているのが、2015年に導入した「ライフ・デザイン休暇休職制度」だ。不妊治療や養子縁組、里親など、新しい家族を迎え入れる際に利用できる。休暇は積立休暇を半日または1日単位で利用でき、休職は無給で1カ月~24カ月まで、2回に分割することも可能だ。
ピジョン 人事部人事労務グループ マネージャー 渡辺雪香 氏
特徴的なのは、里親専用の制度を一から設けたわけではない点だ。
もともとは不妊治療との両立を支援するためにつくられた制度だったが、社員から「養子縁組を考えている」「里親になりたい」という相談が寄せられた。その社員は仕事との両立の難しさから断念することも考えていたという。
そこで人事は、「新しい家族を迎える」という既存制度の考え方に照らし、養子縁組や里親にも利用できるよう対象を広げた。
「社内にニーズがない」で思考停止しない
一方で、利用者が限られる制度を経営陣や現場にどう説明するかという課題もある。
渡辺氏は、一人の社員の要望そのものを理由に制度化するのではなく、「多様な社員が自分らしく活躍できる会社にする」という上位の考え方から説明することが重要だとした。特定のニーズへの優遇ではなく、さまざまなライフイベントに対応できる柔軟性を持たせるための制度だと位置づける。
また、人事部が把握しているライフイベントだけを前提に制度をつくれば、制度の隙間からこぼれる社員が生まれる。ピジョンでは「制度に書いていないから無理」と社員があきらめないよう、既存制度に当てはまらない場合でもまず人事へ相談してほしいという姿勢を明確にしている。
「生きた制度」にするため社員の声を聞く
制度をつくった後も、ピジョンでは社員の声を継続的に聞いている。
全社アンケートに加え、育児中の社員を集めたグループインタビュー、年1回のエンゲージメントサーベイ、自己申告制度などを活用。課題を把握した上で制度の優先順位を決め、必要に応じてメンテナンスする。
重要なのは、社員から出た要望をすべて実現することではないという。実現できない場合も、「今回はなぜ対応しないのか」「何を優先するのか」をフィードバックし、納得感をつくる。
管理職に対しては年1回、育児・介護をはじめとする両立支援制度を学ぶ機会を設けている。動画を視聴し、クイズに答える簡易的な仕組みも用いながら、部下から相談された際に制度を知らないという状態を防ぐ。
11社が「自社ならどうするか」を議論
後半の意見交換では、11社の人事・労務担当者らから、自社の課題を踏まえた具体的な質問や意見が相次いだ。
大同生命保険からは、里親制度を社員や管理職にどう認知してもらうかについて質問があった。エレコムは2026年4月から、里親になるための活動を始めた社員や、実際に里子を迎えた社員への支援制度を開始したと紹介。現時点では利用者はほぼいないものの、まず制度を動かし、実際の利用者の声を聞きながら改善していく考えを示した。
JR東日本からは、グループ会社への出向時に制度をどう扱うかといった質問が上がった。
JR東日本では、実子に限らず、里子や養子を育てる社員も子育て支援制度の対象とし、短時間勤務や育児休職などの制度を整備しているという。
渡辺氏は、ピジョンも初めから現在の制度が整っていたわけではないと強調した。かつて男性育休の取得率が約30%だった時期には、経営トップからのメッセージをきっかけに職場風土を変えていったという。
他社が取り組みを始める際にも、最初から完成した制度を目指す必要はない。まず自社の社員が何に困っているのかを把握し、制度を少し変える、経営からメッセージを出すなど、小さく動き始めることが重要だとした。
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こども家庭庁・里親制度広報ウェブサイト「広げよう里親の輪」








