広告会社と言うと、マーケティングやクリエイティブと言った職種が中心のように思われる。
しかし事業の数字面では違う。確かにマーケッターのコンサルティング費や調査費、クリエイターの企画費や制作費は広告会社にとって大事な収益源の1つだ。しかしそれ以上に大きな割合を締めるのは「メディアの売り買いによる収益」になる。
このコラムでは広告代理店とコンサルの比較を行っているが、コンサルが広告領域に参入しはじめた2010年頃の電通の収益内訳をみてみよう。
メディア事業による収益:8,852億円=67.3%
マーケティング/プロモーション事業による収益:1,672億円=12.7%
クリエーティブ事業による収益:1,650億円=12.5%
コンテンツ事業による収益:755億円=5.7%
その他の収益:222億円=1.7%
(出典:Dentsu Annual Report2014)
ご覧のように、当時の広告代理店の収益のうち約7割がメディアによる収益なのだ。マーケティングが12.7%、クリエイティブも13%割程度にすぎない。このメディア事業による収益とはなんなのか?一般の方には理解し難いが、不動産屋をイメージしてもらうとわかりやすい。
今はスマホを開けば、至る所に広告が出てくる。SNSを開いても広告のフィードが入ってくるし、YouTubeを見てもPR案件がある。最近では、AIの検索結果にも広告が連動するようになった。つまり世の中の広告枠はどんどん増え続けている。それ故に、広告市場は巨大に膨らんでいる。
しかしここまでの状態になる前、広告を流せる枠は限られていた。テレビも雑誌も新聞も、広告枠は増やせない。60分番組なら、広告枠に使えるのはせいぜい6分程度。新聞30〜40頁に対して、広告枠に使えるのはせいぜい3割くらい。それ以上になると、どっちが本編かわからなくなってしまう。
この限りある広告枠を、都内の一等地のような感覚で企業が奪い合っていた時代があった。奪い合っていたので、費用もどんどん上がっていた。例えば新聞広告で全国紙に1頁の広告を出そうと思ったら、2,000〜3,000万円程度のメディア費がかかる。ゴールデンタイムの1番組に1ヶ月間(約4回分)CMを流そうとしても、同じくらいの費用がかかる。テレビ番組は2クール(3ヶ月)単位なので、枠を抑えるためには1億以上の費用がかかることになる。
それだけじゃない。1億円のメディア費は、不動産で例えればあくまでも「土地代」だ。そこに流す広告をつくる制作費が(不動産で言えば建物の建築費)がかかる。メディア費と制作費の割合は決まっていないが、イメージとしてはやはり不動産に近い。
1億円の土地を買った場合、建物代の目安は3〜5割(3,000〜5,000万円)といったところだろう。当時、マスメディアで広告を打とうと思ったら、最低でもこのくらいの費用が必要だった。その仲介役を行なっていたのが広告代理店だ。
「うちから土地を買ってくれたら、建物は格安で造りますよ。なんなら周辺の調査費もサービスしますよ」という不動産会社があるように、当時の広告代理店もそんな感じだっだ。「うちからメディアを買ってくれたら、CMは格安で造りますよ。なんならマーケティング費もサービスしますよ」といった具合だ。なぜそんなことが可能になるのか。それは土地を売り買いによる収益性が大きいからだ。
例えばCMを作るには手間がかかる。コンテを書いて、ロケ地を決めて、撮影をして、編集をして、データを書き出して、などなど、膨大な人件費がかかる。制作費5,000万と言っても、利益率は20%程度。1,000万の利益を出すには、時間と手間が必要だった。
それに対してメディアの売り買いは効率がいい。土地の売り買いが契約書だけで完結するように、広告枠の売り買いも「買いますか?」→「買います」で完結する。当時は契約書もなくて、口頭連絡だけで広告枠を押さえていた(それ故に売り違いもあった)。利益率は広告枠によって違うが、10〜30%程度が目安。1億円の広告枠を売れば、すぐに2,000万円前後の収益をあげることができる。当時の広告代理店では、こんな売り買いが毎日至る所で動いていた。
わずか数分で2,000万を稼ぎ出すメディア収益。一方、何ヶ月もかけて1,000万を稼ぐクリエイティブ収益。どちらに注力すべきかとは一目瞭然だ。このメディア収益があるから広告代理店は高給だし、大きな影響力を持つことができた。表向きはマーケティングやクリエイティブな会社に見せていたが、実際は不動産屋だったのだ。


