「旗印発想」という船の漕ぎ方 読売広告社・田中龍一氏が心がけるクリエイティブディレクションとは

読売広告社のクリエイティブディレクター・田中龍一氏は、広告やキャンペーン施策を進める際に、コアとなる「旗印」をクライアントやチームメンバーと共有することが大事だと話す。今年、クリエイター・オブ・ザ・イヤー メダリストを受賞し、この4月に同社のクリエイティブセンター長に就任した田中氏に、クリエイティブワークやこれからの組織のあり方について聞いた。

読売広告社 クリエイティブセンター センター長
クリエイティブディレクター/アートディレクター 田中龍一 氏

1982年生まれ。多摩美術大学情報デザイン学科卒業。デザイナー経験を経て、2011年読売広告社にアートディレクターとして入社し、クリエイティブディレクターに。2026年4月からクリエイティブセンター長。2025 クリエイター・オブ・ザ・イヤー メダリスト。

チームとクライアントをひとつにする「旗印発想」

━━田中さんは現在、クリエイティブディレクターとして様々な案件に携わっていると思います。それぞれ課題やチームメンバーは異なると思いますが、普段はどのようなことを心がけていますか。

僕は「旗印発想」と表現していますが、どの仕事においても、施策のコアとなる「旗印」を掲げることを意識しています。それは短い言葉かもしれないし、色や形、あるいはキャラクターかもしれない。みんなが「これだ!」と納得・共感できる強い旗さえあれば、チームやクライアントが同じ方向を目指して迷わずに船を進めることができます。

逆に、軸となる旗がないまま進み出すと、周囲の意見に振り回されてすぐブレてしまうことが少なくありません。クライアントやチームメンバーとあらかじめ旗を共有しそれを基にすれば、あとはタイミングに合わせて様々な手法で適応させればよいので、プロセス自体も明快で楽しめるようになります。

思えば昔から旗が好きでした。小学校の運動会では、応援もせず空に浮かぶ万国旗をずっと眺めていました。たとえば、アメリカの国旗「星条旗」は、独立時の13州が条になり、現在の50州が星になっています。つまり、過去と現在、不変と可変が融合した旗印ですよね。

写真 読売広告社 田中龍一 氏

━━クリエイティブワークの具体的な事例を教えてください。

自社のVI(ヴィジュアル・アイデンティティ)開発に携わりましたが、自社の「これまでの価値」と「これからの価値」を旗にしました。

それから、サッポロビールの「GOLD STAR」は、今年10月からビール化されるのですが、これまでは発泡酒➁でした。GOLD STARはじつは、ヱビスビールで使われているホップとサッポロ生ビール黒ラベルで使われている麦芽を一部使用した発泡酒➁だったのです。その価値を「ヱビスと黒ラベルのいいとこどり」という言葉と3色で旗をつくりました。サッポロ2大ブランドの名前を借りて商品の価値を規定することはある意味チャレンジでしたが、この旗印があることで、スムーズに明快なコミュニケーションを設計することができました。

写真 広告 ヱビスと黒ラベルのいいとこどり。

写真 広告 ヱビスと黒ラベルのいいとこどり

デザインも企画、企画もデザイン

━━キャリアのスタートはデザイナーでしたね。

デザイナー経験を経て、2011年に読売広告社に入社しました。前職ではテレビCMやメディア横断のキャンペーンに携わることがなく、広告会社に入って初めて、恥ずかしながらデザインの手前に「企画」という大事なプロセスがあることを知りました。

周りには熟練のプランナーたちがいて、調査データからロジックを組み立て、コンテを描いている。それを見よう見まねで学んでいきました。中途入社というと即戦力のイメージがあるかも知れませんが、当時の自分はは本当にわからないことだらけで手探りで必死でしたね。

ただ、試行錯誤する中で「デザインも企画、企画もデザイン」ということに気づいたのです。企画に手こずるあまり、仮面をかぶってそれっぽく振る舞うより、これまで培ってきたことや、自分が好きなものをベースに広げていくほうが自分らしくできる。それが今のクリエイティブスタイルの原点になっています。

キャラクターが「分断」を超え、「愛着体験」を生む

━━三菱自動車の軽自動車「デリカミニ」は、愛らしいキャラクター「デリ丸。」を軸にしたキャンペーン展開が話題です。2025年度の「クリエイター・オブ・ザ・イヤー賞」メダリスト受賞にあたっても評価されました。

賞の審査では「キャラクターで世の中の分断を超える」というテーマを掲げました。キャラクターはまさに “生きる旗印” です。短期的にバズって終わりではなく、育てて拡張していくことでビジネスに寄与することが重要だと考えています。世の中の課題の多くは価値観の「分断」によって起きていますが、キャラクターは理屈ではない感覚的な愛着力で、その分断をつなぐ力を持っていると信じています。

写真 デリ丸。

写真 広告 デリカミニ

デリカミニの「デリ丸。」は、商品と愛着を掛け合わせたようなキャラクターとして設計しました。デリカミニをご成約いただくと、CMと同じ等身大の「デリ丸。」ぬいぐるみがついてくるという形にすることで、「デリ丸。」と一緒にお出かけする新しいカーライフ体験を提供できます。

次第にファンイベントが行われたり、様々なグッズ企画やタイアップ企画、雑誌の付録になったり、絵本として出版されたりと、様々な立場の方々に可愛がってもらいながら、どんどん広がっていった稀有な事例だと思っています。今年の阿佐ヶ谷七夕まつりで、「デリ丸。」の巨大手作りハリボテが飾られていたのは、世の中に浸透していることを実感できて嬉しかったですね。

キャラクターはタレントとは異なる形で、資産として企業に蓄積されていく「旗印」になります。そのためには、クライアント自身にもキャラクターを好きになってもらい、愛情を持って「飼い慣らして」もらうことが不可欠です。ブランドらしさが詰まった愛着を持てる存在へと育てていくことを心がけています。

写真 デリ丸。

 

━━BtoB企業でもキャラクターの可能性を広げています。

工事現場や屋外イベントなどで使う発電機メーカーのデンヨーでは、製品の形や色をキャラクターに落とし込みました。キャラクターを知ることで、街中にじつはたくさん点在する製品が目につきやすくなります。「あ、こんなところにデンヨーの発電機あったんだ!」って。社員の方々にとってもリクルートにとっても会社に愛着を持てるきっかけになります。

賃貸マンションなどの管理・運営を行う東急住宅リースグループでは、新しいVIやパーパスを社内浸透させるために特化したキャラクターをつくりました。このキャラクターを起点に、経営と社員とのエンゲージを高めたり、社員とその家族とのエンゲージを高めたり、社員の意識や結束を強めるための媒介としてキャラクターを活用しています。

課題解決の媒介としてキャラクターが機能する場面は非常に多いと感じています。

写真 デンヨーくん

写真 みどりのすまりす

 

━━日本を代表するキャラクターを旗印にした事例もありますね。

はい。サンリオのスポーツ支援にまつわるコーポレートブランディングのお手伝いをさせていただく中で、サンリオの企業理念「みんななかよく」と、Jリーグの課題とする「フェアプレーの精神」の親和性からコラボレーションが実現しました。ハローキティのリボンには、気持ちと気持ちを結ぶ “なかよしのしるし” という意味が込められています。Jリーグ全60クラブそれぞれのリボンをつくり旗印にするところからプロジェクトをスタートさせました。

写真 広告 Jリーグとサンリオ

写真 ハローキティのリボン

© 2026 SANRIO CO., LTD. APPROVAL NO. CB260615 著作 株式会社サンリオ

“得意技” を持つクリエイターが行き交う「交差点」「広場」のような組織へ

━━今年4月からクリエイティブセンター長に就任しました。マネジメントにおいて意識していることはありますか。

チームメンバーとは上下より左右、なるべく環状的でフラットな関係で接し、相手を信じていることが伝わるように心がけています。メンバー一人ひとりにそれぞれ役割や強みがあります。「あなたにお願いしたい仕事なんだ」とそれぞれが思ってくれること、前のめりに楽しんでやれることを一番のベースにしたいですね。

読売広告社は全社員約600人という絶妙なサイズ感で、大きな仕事で競う機会がありつつ、個人の裁量やチャンスも多い会社です。野心を持った若い人たちの力になれる存在でありたいと思っています。

━━これからのクリエイティブ組織のあるべき姿について、どのようにお考えですか。

それぞれの「得意技」を型にして価値にできるクリエイターの集団であり続けたいです。企画が得意な人もいれば、デザインやデジタルに強い人もいる。そうした様々な得意技を持った人が行き交う「交差点」や「広場」のような場所になればいいなと。人が生き生きとしていることが何より大切です。

AIの影響などで手法ややり方は変わっていくかもしれませんが、届ける相手である「人」が変わるわけではありません。「人に届くものを人が作る」という本質は変わらないと思っています。だからこそ、私自身もプレイングマネージャーとして、現場で手を動かしながら挑戦し続けていきたいですね。

お問い合わせ

株式会社読売広告社

URL:https://www.yomiko.co.jp
Mail:koho_mail@yomiko.co.jp

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