テレビにはテレビの、WebにはWebの強みがある。互いに長所を洗練させることこそ、強いコミュニケーションを生むきっかけになるはずだ。デジタルならではの映像表現を追求するインタラクティブエージェンシーunit9の仕事を紹介する。

例えばアメリカの広告主の課題を、スイスのディレクターやロンドンのデザイナー、パリのキャラクターデザイナーがチームを組んで解決にあたる。撮影はロスで、開発チームはイタリアやブラジル…これがunit9の平均的なプロジェクトのあり方。世界中にちらばるおよそ70人の「unit9’ners」の中から、4人のディレクターにそれぞれの仕事について尋ねた（本記事は、月刊『ブレーン』2012年3月号に掲載した記事に加筆したものです）。

※【前編はこちら】

商品特長をインタラクティブ映像に翻訳

ペルフェティ・ファン・メレの板ガム「UP2U」のために2011年9月に開設されたWebサイト。同年5月発売の「UP2U」は、2つのフレーバーをセットにした4種8フレーバーのガムで、1つのパックで気分に応じて味を選べるのが特長。ネーミングもずばり「あなた次第（Up to you）」。このサイトでは、その特長を、「スーパーヒーロー／スーパーモデル」「ヒップホップ／宇宙飛行士」などの2篇ずつ4組の映像で表現した。若年層をターゲットにした商品として、まずオンラインでの話題の広まりを狙ったオンラインキャンペーンの一環。

再生画面は中央で分割されていて、2つの映像の境界線を左右に無段階に操作できる。片方の画面の占有幅が大きくなると、そちらの映像の音量も上がる仕組み。セットにした映像のテイストは全く異なるものの、例えば「モンスター／エアロビクス」では怪物に抵抗するために挙げた手と、エアロビクスで振り上げた手が重なるなど、登場人物の行動がリンクする。

　

「撮影時に苦労したのもこの点でした」とディレクターのAnrick Bregmenさんは振り返る。「それぞれの状況下で登場人物はどんな動きをするか? そのアクションをどうやってもう一方の物語につなげるか?――こうした問題をクリアできたのは、プロトタイピングを重ねながら制作したからです」。カメラワークだけをテストした動画を、Flashで制作した試験版に組み込んで確認。それを見ながら、今度は登場人物の振り付けや、セット上の動き方を図面に起こし、正確な撮影タイミングを導き出した。BGMも、ユーザー操作を数値で示すプログラムを組み、音源やミックスバランスなどの調整を重ねた。

　

「商品のコンセプトは（フレーバーの）『選択』。即興曲のような映像をどう楽しむかは、サイト訪問者の選択次第――商品コンセプトをきちんと踏まえたインタラクティブ映像になったのではないでしょうか」。

「テクノロジー」がクリエイティブディレクター?

BMWフランスが展開している、マルチプレイヤー向けFacebookアプリ。世界中の街をレースコースにして、「MINI」を走らせて遊ぶゲームだ。Facebookアカウントで認証した上で、都市名を入力し、グーグルの地図サービス上でその場所に移動。地図上に停車している「MINI」を十字キーで操作する。スタートからゴールまでの走路や日時を設定して、友人同士でレースすることも可能だ。

「世界中のすべての人に、友だち同士で近所の裏道をコースにしたレースを楽しんでほしかったんです。『MINImaps』は、インターネットという世界的なリソースを、ローカルな楽しみのために用いた例のひとつ」と話すのはディレクターを務めたChristian Etterさん。「きっと参加者はそれぞれ、異なるロケーションでディスプレーの前に座っているはず。けれどオンライン上では同じ道を走っている。MINIのドライビング体験を空間を越えて共有してもらうために、インターネットは最良のメディアでした」。

　
（左）interface、（右）navigation

前例のないプロジェクトの実現には多くのハードルが立ちはだかった。「僕が判断したのは多くのアイデアをあえて切り捨て、ゲームの側面だけに照準を合わせたことでしょうか。今回のプロジェクトに限って言えば、クリエイティブディレクションの導き手になったのはテクノロジーと言っていいくらい。異なるブラウザー、異なるコンピューター、異なる通信速度の中でユーザーをつなぐには、技術の助けなしには不可能でしたから」。

　
（左）sketching userjourney、（右）view from Indian Office