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コラム

CSR視点で広報を考える

大津の中学生自殺問題から垣間見える闇と光  

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「見て見ぬふり」は日本の恐るべき風土病

「コンプライアンス」という概念が日本に登場して久しい。内部統制やリスク管理の視点から頻繁に使用されているが、根付いているかといえばかなり怪しい面が散見される。「法令遵守」として一般的に解釈されているが、法令を違反することで信頼の失墜や、それを原因として法律の厳罰化や規制の強化が事業の存続に大きな影響を与える事件が顕在化したため、特に企業活動における法令違反を防ぐという観点からよく使われるようになった。最近では業界、社内、コミュニティ内のルールなどの遵守においても、コンプライアンスという言葉が使用され、広い意味で解釈されている。

「コンプライアンス」の骨組みの中には、問題の早期発見のしくみが組み込まれており、いわゆる内部通報制度の活性化がコンプライアンス体制の重要な有効性評価の基準のひとつとなっている。企業の危機をこれまで2400事例以上も間近に見てきた筆者は、企業内で発生した危機の初動時において内部通報制度が機能していない実態を繰り返し見てきた。

対応に失敗した多くの企業は、現場から通報を受けた上司や先輩社員が「俺は知らなかったことにしてくれ!」「それは君に任せた!」と取り合わず、事態の悪化を放置したことから致命的な社会事件として発展している。当然ながら事実確認、状況把握、原因究明はなおざりにされ、事態が顕在化したときには「手遅れ」となり、第三者による調査が開始されるまでは真相の究明すらおぼつかない事例も少なくない。創業者一族による長い歴史によるガバナンスに問題があったとして彼らのDNAが危機を惹起したかのように「企業風土病」と揶揄する者も多い。

しかし、最近の日本はおかしな事件が発生している。単年度に発生した犯罪行為は少なく、複数の過年度にわたり犯罪は複雑なスキームによって周到に隠蔽され、監査役会や外部監査人の目をすり抜け、なかなか見つからない。それは重要な責務や役割を担う人間が長期間居座り、抜け穴を見つけ、その行為が監視されていないことも原因だが、最も問題なのはその人物あるいはグループこそが最大の権限を持ち、自分(達)の地位を脅かす者があれば一瞬のうちに抹殺できる力を有していることにある。

その場合、内部統制やコンプライアンスのしくみは脆く、形骸化し、意味のないものになりかねない。なぜなら内部にいる者は報復を恐れ、ひるみ、あるいは勇気をもって通報した者さえ見捨てる事態に陥るからである。

大津中学生自殺問題は日本人全体の問題

昨今、企業コンプライアンスについて全く知らないという就業者はいないが、いわゆる社会の常識的ルールを守るという意味で、家族間でコンプライアンスを議論した家族がどれだけいるだろうか?

親はもちろん、学校、教員、自治体はそれぞれの責任問題を議論するが、「事件は常に現場で起きている!」ことを忘れていないか? 企業の危機が起きた場合、何よりも重要なのは現場の修復であり是正である。責任の表明や再発防止は当然重要であるが、悲鳴をあげる子供達を放置し是正を行うタイミングが遅れれば第二、第三の犠牲者が出る。「非常事態である」という認識があまりにないように感じる。

2度にわたってアンケート調査が行われているが、実施者が当事者から既に信頼関係を失っている場合、適正な回答が得られる可能性は低い。内部通報のしくみが一度抹殺されてしまった後に、「今度は聞く用意があるので正直に行ってみなさい」と言われても、子供達はおじけづいて語れない。それでも勇気をふるって答えた内容ですら調査は継続されず、直ちに公表されないものも多くあった。子供達から見れば大人の裏切り行為のように映るだろう。

今回のケースは現時点で関係者による「事実」の隠蔽があったかどうかは今後の警察捜査や他の調査に委ねるしかないが、「可能性」の隠蔽については明らかにあったと考えられる。中学生の自殺という痛ましい結果になった背景を究明せず、可能性の存在を否定し隠蔽した責任は必ずつまびらかにしなければならない。

大津中学生自殺問題は、日本人の闇をえぐり出したが、一方で光も見いだした。日本中の国民がこの問題を共有し、色々な点について考えを廻らし始めた。周囲が子供の心や行動に目を向け始めている。大津市の自殺中学生遺族側が設置したホームページには開設翌日の1日だけで36万4894件のアクセスがあり、電話やメールも500件以上寄せられたと聞く。この事件がきっかけで、日本人が子供達の適切な生活環境に着目し、関係者が子供を置き去りにして主張し合うのではなく、子供達の目線で心を開くことを願うばかりである。

白井邦芳「CSR視点で広報を考える」バックナンバー

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