企業の存続は、人として生きることと同じ
人は生きていく上で、色々な人々とかかわっている。家族・友人・同僚などのように長いつきあいもあるだろうし、袖触り合うも多生の縁という関係もあるかもしれない。個人としてのつきあいであれば、自然とその関係の濃淡で、情報交換の頻度や内容を変えているものである。相手の何かを知りたい、相手に何かを伝えたい、そんな当然の気持ちのキャッチボールを生きていく基本姿勢の中で学んでいく。
そのあたりまえの情報伝達機能が「人」から「企業」に変わると、希薄になってしまった。ある時代に、「広報」は技術であり、専門性が必要との知識が植え付けられた。素人が触れてはいけない何かがあるかのような錯覚さえ感じさせた。しかし、現実には、かかわっている「人」が「ステークホルダー」に変わっただけである。
「人」が生きるかのように「企業」は存続する。それは、関係しているすべての人々に正確に、かつ過不足なく情報を伝えること。誰に何を伝えるかは、企業側の狙いや、ましてや戦略などという大げさなものではなく、聞く側の要求に従い伝えればよい。企業にとって「広報」は、人と係っている限り間違いなく必要なものであるが、伝える優先順位や内容については、企業が個々のステークホルダーとのかかわり合いで判断すればよい。
にもかかわらず「広報」が戦略的なものでなければならない理由は、伝い手の言葉の曖昧さや表現力のなさが、聞く側の誤解を招くことにある。人とのコミュニケーションが苦手となりつつある日本人は、いつのまにかステークホルダーに対するコーポーレート・コミュニケーションにおいても苦手意識をもってしまった。
人は、褒めてもらいたいときには言葉も滑らかだし、自然と表情も緩くなる。一方、怒られるときには、言葉は重くなるし、表情も硬くなる。しかし、企業という無機質的な組織の行った不祥事における謝罪会見で多く見られる現象は、当事者の存在感がないものばかりだ。これだけは伝えたいという意思表示もなく、誰に向けられた情報なのかも定かではない。残念なことである。
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