村上春樹さんの7年ぶりの本格長編小説『騎士団長殺し』が2月24日に発売された。初版と事前増刷を併せて130万部という驚異的な数字と、表紙や内容がベールに包まれたプロモーションにも注目が集まった。その背景と施策について、新潮社の担当編集者に聞いた。
(文:スマートニュース マーケティングディレクター/SmartNews Creative HUB 松岡洋平 氏)
「先入観」を避けるための余白
2002年刊の『海辺のカフカ』(新潮社)では、発売前に「15歳の話らしい」「中野区の話らしい」といったコピーを小出しにして、最小限の内容を明かすことを試みました。さらに2009年刊の『1Q84』(新潮社)では、「先入観なく作品を読んでほしい」という村上春樹さんの意向から、発売までは内容を一切開示しない施策をとりました。
前作の『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文藝春秋)も、表紙や内容などの情報は発売まで伏せたままで、タイトルやメッセージを徐々に出されていたと思います。
今回の『騎士団長殺し』も、これまでの方法を踏襲しています。2016年11月末に新潮社より「発売月」「本格長編」「原稿用紙2000枚分」「書き下ろし」「全2冊」で発売することを発表し、2017年1月にティザーサイトをオープンして「タイトル」「各巻のサブタイトル」「背表紙の書影」「発売日」を告知していきました。
通常のプロモーションでは、書評を書いてもらうため、事前に書籍や原稿を各所に送付します。そして発売から日をおかずに書評が出て、書籍の帯にもさまざまな識者のコメントが連なるのが一般的です。ただ今回は、著者の「読者とすべて同じタイミングにしたい」という意向で、関係各所に対しても例外なく発売当日に発送することにしました。
