『ブレーン』では佐藤可士和さんが美大生からの質問に答える連載コーナー「美大生からトップクリエイターへの質問」を掲載しています。アドタイでは、隔週でこの連載を転載しています。
※本記事は、『ブレーン』2011年11月号(連載第4回目)掲載分です。
連載「佐藤可士和さんに質問」はこちら
A.感性の解像度の高さを見ています
自分で几帳面といい切れる人がいい
サムライでは毎年インターンの学生を数名、受け入れています。面接の場で、僕はかならずこう尋ねます。「あなたは、几帳面ですか?」。
几帳面という言葉には、神経質なイメージや、ダイナミックな発想ができないといったマイナスイメージがあるようで、学生の多くは「そうでもありません」と答えます。しかしそこで胸を張って「はい、几帳面です」と答えられる人がほしい。僕の中では、それがまずひとつの選考基準になっているんです。
僕たちが行う日々の業務は、0.1ミリの配置の違いや、数パーセントの色味の差の検証です。自分で言いきれるほどに筋金入りの几帳面な人でなければ、とても続けることはできない。ここでいう几帳面さというのは、そのままデザインに対する感性のレゾリュ―ション(解像度)に通じると思っています。
それは学生の行動を見てもすぐにわかります。面接がはじまり、簡単な自己紹介をしてポートフォリオを取りだす。そこまでの流れだけで、サムライがデザイナーに求めている資質がその人に備わっているかどうか、半分くらいはわかるんです。
挨拶や会話の受け応えがきちんとできていても、カバンから提出書類を取り出すしぐさが乱暴だったり、ポートフォリオの表紙が傷だらけだったり、僕から見て上下が逆のまま差しだしたりするような人は、向いていないと判断します。
自分の作品を、ベストの状態で、相手に心地よく見てもらうにはどうしたらいいか。デザインの仕事というのは、そういった気配りをクライアントに対し、ひいては社会に対し行っていくことでもあるからです。
気配りがあってこそのクリエイティビティ
これはあくまでも僕の考え方であり、その会社の風土や面接官によって、重視するポイントはそれぞれ違ってくるでしょう。もっと、若者らしい大胆な発想や新しい視点を重視する人もいるかもしれません。
もちろんクリエイティビティをないがしろにしているわけではありません。几帳面かどうかはあくまでベースの話です。けれど、画期的な発想法や造形的な実力は、入社後に実務を行いながらでも学んでいけます。しかしそれ以前の部分で波長が合わないと、僕の話も、求められていることも理解できない可能性がある。それがいちばん困ります。
デザインの目的が人に見てもらうものである以上、場の空気や人の気持ちを察し、繊細な配慮で形にしていくことの重要性は、つねに意識しておいたほうがいい。ダイナミックな発想や独創性も、見てくれる人あってのものですから。
デザイナーに限った話ではなく、超一流と呼ばれる仕事をしている人たちは総じて場の空気や人の気持ちを察する能力が高く、相手を不快な気分にさせないものだと感じます。
たとえ今、自分をそこまで几帳面だと思わなかったとしても「意識して変えていこう」と思えたなら適性はあります。わからない人は、自分が「わかっていない」ことにも気づかない。
クリエイティブの仕事は、一般の人が踏み込まない“感覚の領域”をフィールドにするものです。誰もが見過ごしているものごとに自分だけが気づくくらいの几帳面な人と、一緒に仕事をしたいですね。
※編集部では佐藤可士和さんへの質問を随時募集しています。 brain@sendenkaigi.co.jp まで[質問、お名前、学校名、学部名、学年]を書いてお送りください。お待ちしています。
※最新号(2月号)では、「入社後は、全員が同じような仕事をやらせてもらえるのですか?」への回答を掲載。こちらもあわせてご覧ください。
(プロフィール)
佐藤可士和
アートディレクター/クリエイティブディレクター。1965年生まれ。多摩美術大学卒業後、博報堂を経てサムライ設立。主な仕事にユニクロ、楽天グループのクリエイティブディレクションなど。
シリーズ【佐藤可士和さんに質問】
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