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「脱成長〈デクロワサンス〉」持続可能な経済モデルをめぐる思想潮流(1)

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世界的な潮流をなしつつある思想「脱成長」(デクロワサンス〈Decroisance〉、デグロース〈Degrowth〉)について、『環境会議』2013秋から、気鋭の研究者による論文を紹介します。

中野 佳裕 国際基督教大学社会科学研究所助手・研究員

セルジュ・ラトゥーシュ等の脱成長論によれば、人類の生存のために私たちがまずすべきことは、際限なき経済成長という価値観からの脱出である。では、脱成長のパラダイムは、持続可能な社会をどのような手続きで描くのか。歴史哲学の再編、倫理の再構築、民主主義の深化の3点から検討する。



セルジュ・ラトゥーシュ(Serge Latouche)。パリ第11大学(University of Paris- Sud)の経済学名誉教授。脱成長理論でもっとも著名な思想家として知られる。政治学、哲学、経済学の学位を持ち、認識論、文化人類学、貧困の経済学の研究者グループ(GRAEEP)のメンバーで、経済功利主義や経済効率、経済合理性を批判した。

脱成長(デクロワサンス)というスローガンは、先進諸国が目指すべき新しい社会発展目標として、2000年代初頭にフランスの思想家セルジュ・ラトゥーシュ等によって提案された。その後このスローガンは、世界各地で同時多発的に展開している反グローバリズムの社会運動のうねりの中でヨーロッパやラテンアメリカの市民社会に徐々に浸透し、論争を巻き起こしている。

2008年以降は「脱成長に関する国際会議*1」も隔年で開催されるに至っている。ラ
ルース辞典*2には「資本主義的経済成長を諦め、地球に対する我々のエコロジカル・フットプリントの削減を推奨する政策」として紹介されている。脱成長の企図は、経済のグローバル化がもたらす生態学的・社会的危機を克服するために、産業文明の構成原理の抜本的変革を構想する。



(左)2008年にパリで開催された脱成長に関する国際会議のポスター。
(右)持続可能な社会への脱成長のプロセスを示す図。(1)アンチ成長(市民的不服従)、(2)代替的成長(創造的なシンプル生活)、(3)無成長・「成長イデオロギー」を信じないこと(調査と暴露)、(4)脱成長(文化変容の普及)、(5)非成長(持続可能な社会)

本稿では、脱成長の理論的特徴を、(1)歴史哲学の再編、(2)倫理の再構築、(3)民主主義の深化の3点に絞って紹介する。

(1) 歴史哲学の再編

過去10年間、地質学ではアントロポセン*3という新語が流通している。アントロポセンは完新世に続く地質学上の時代区分であり、人間の諸活動が生物圏の再生産能力に影響を及ぼす時代を指す。アントロポセンの時代がいつ始まったかは諸説あるが、フランスの哲学者ジャック・グリンヴァルドに従えば、産業革命以降の時代、わけても化石燃料依存の工業的生産様式の拡大成長が始まった1860年代以降の時代がこれに相当する。

この地質学上の新たな時代認識は、われわれに歴史哲学の再編を迫る。伝統的に西洋文明において、歴史は人間の創出した政治社会体制の変化を対象とするものだとされ、自然史と明確に区別されてきた。

しかし、1970年代より顕在化した地球環境問題は、人間の営みが生物圏の因果関係を変容させ、その影響をめぐりめぐって人間自身が被るというフィードバック・ループの存在を明らかにした。ここに、人類史を地球生命史の中に位置付けて検討するという、歴史哲学の再編が要請されるに至ったのである。

*1 これまでに開催された脱成長に関する国際会議は、欧州の研究(実践)者たちを中心とするResearch & Degrowth(R&D)によるパリ(2008)、バルセロナ(2010)、ベネツィア(2012)における会議と、南北アメリカの研究者たちを中心とするDegrowth in the Americasによるモントリオール会議(2012)がある。
*2 ラルース辞典はフランスでもっとも一般的な百科事典。
*3 アントロポセン(Anthoropocene)は、ノーベル化学賞を受賞したドイツ人の大気化学者、パウル・クルッツェン(Paul Crutzen)が、2000年のIGBP(International Geosphere
Biosphere Programme)の会報41号でユージーン・ストーマーとともに提案した言葉。

 

『環境会議2013年秋号』
『環境会議』『人間会議』は2000年の創刊以来、「社会貢献クラス」を目指すすべての人に役だつ情報発信を行っています。企業が信頼を得るために欠かせないCSRの本質を環境と哲学の二つの視座からわかりやすくお届けします。企業の経営層、環境・CSR部門、経営企画室をはじめ、環境や哲学・倫理に関わる学識者やNGO・NPOといったさまざまな分野で社会貢献を考える方々のコミュニケーション・プラットフォームとなっています。(発売日:9月5日)
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