――広告の変化をどう見ているか。
広告、マーケティングを取り巻く環境は今、変革の最中にある。変革の根幹をなすのが「at」から「for」への変化。従来のマーケティングは「人に向かって(at)」行うものだったが、いま必要とされるのは「人のために(for)」という発想だ。
それゆえ、消費者にブランドを知り、興味を持ってもらうきっかけをつくるのが広告の役割だったが、それに加え「広告」自体が、コンシューマーにとって付加的な価値を持つようになっている
――広告を取り巻く環境変化について。最初の「アテンション」のつくり方が変わってきているという意味か。
そうだ。消費者は自分に関連性の高いブランドとは自らつながりたい、またブランド側からもアプローチしてほしいと思っている。
だからこそ最初の接点づくりにおいては、何よりも「関連性」が大事になっている。
「for」という言葉には、その人にとって有益であり、時間を無駄にしないようなコンテンツを提供するという意味を込めている。そのブランドと親和性が高い人を見つけ、その人にとって意味あるコンテンツを提供することがコミュニケーションにおいて重要になっている。
そしてFacebookというプラットフォームは、人が何に関心を持っているかを把握できるので親和性の高そうなターゲットを発見するエンジンとして機能するものだと考えている。
またターゲットを発見するにも、また自分たちを発見してもらうにも、データサイエンスを活用したコンテンツの企画が必要になる。今後、ますますサイエンスとアートの融合が求められていくはずだ。
――情報量が膨大になり、消費者は情報収集も効率化したいというニーズがある。以前のようにブランドの世界観を体験してもらうようなリッチなコンテンツが受け入れられづらくなっている。
その問題については、私は2つの解決の方向があると考える。ひとつがクリエイティブの「軽量化」だ。以前は長く、深いコンテンツをまとめて提供していたが、それを細かく分け、軽くても継続して発信していくという方法がある。Facebook上で行われているブランドコミュニケーションでは、こうしたスタイルのコンテンツ発信で、消費者との関係づくりに成功しているケースが多い。
もうひとつが、何よりもコンテンツ自体の卓越性だ。「広告表現」を考えるという発想ではなく、消費者の時間を獲得しようとするライバルは、テレビや映画などあらゆるコンテンツであるという認識が必要なのだと思う。ただ、「軽量化」で話したように、必ずしもお金や時間をかけたリッチなコンテンツが“エクセレント”とみなされるわけではないことを理解する必要がある。
――米・Facebook社は2012年からFacebook上で実施されたキャンペーンの中で、世界的に見ても優れた創造性をもつ作品に贈賞する「Facebook Studio Awards」を開催しているが、2013年は最優秀作品にオレオの「Oreo Daily Twist」キャンペーンが選ばれている。
「Oreo Daily Twist」が革新的だったのは、毎日コンテンツを投稿していくそのスピード感だ。さらに、その反響を見ながら次のコンテンツを企画するというサイクルができていた。
――「Oreo Daily Twist」が登場して以降、「リアルタイム・マーケティング」という言葉が注目されている。
「Oreo」のリアルタイムのスピード感は秀逸であるが、何よりも素晴らしいのはその活動が「Oreo」というブランドの価値観、存在意義に立脚していた点だ。
毎日投稿を続けていくという活動が、「Oreo」というブランドの生活における役割、利便性を表現していた点が素晴らしかったと思う。
Facebookを活用する際には、そのブランドの価値観や存在意義に立ち戻り、その価値観を表現できるような企画が必要だ。そして消費者にその価値観が受け入れられ、共有された時に、「このブランドは私のブランドだ」と強い関連性を感じてもらえるし、ともにブランドを育てていくことができる関係が構築されると思う。
それができると単に「シェアされる」「話題になる」だけ、ソーシャル上だけで完結してしまう企画ではなく、事業に貢献する企画になるはずだ。
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