ポイントは社内対応と社外対応
10月1日に東京都および沖縄県で施行され、すべての都道府県で暴力団排除条例が出揃ってから約2カ月が経過した。すべての条例の文言が均一に統一されているわけではないので、全国に拠点を持つ会社では各拠点の自治体が施行する条例に従うことになる。そのため、コンプライアンスの視点からすべての条例に細かく眼を通してこれに従うことはかなり手間がかかる上、厄介なことである。
しかし、企業として何も対策を講じなければ、知らないうちに暴力団と何らかの関係を築き、自らの企業が暴力団関係者と認知されたり、その関わり合いを「公表」という方法で開示され、企業の信用に影響を与えられるばかりか、存続すら危うい状況に追い込まれる可能性も否めない。その意味から何らかの対策を講じる必要が出てくる。
企業として対策を講じる最優先順位は、社内対応として自らの潔白を認知させることである。これまで通り、暴力団・構成員・暴力団関係者とされる人物を従業員として雇用せず、現従業員に対しても、これらの該当者との親密な関係を持たせずに、健全な企業として活動することである。
一方で、取引先等に対して反社会的勢力遮断の行動規範を宣誓し、これらの対象者と一切関わらないとの毅然とした態度を取り、そのためのコンプライアンス体制を堅持し、判断に迷う場合は弁護士、警察組織犯罪対策課、暴追センターなどの協力を得て対処するなど、相手によってぶれないしっかりとした体制で臨むことが重要だ。
所轄の警察署に依頼すれば企業向けの講習を受けることもでき、社内の責任部署を設置して、経営トップが全社に向けて暴力団排除の意思を伝えることが最初の啓発活動になる。
各拠点には「暴力団を利用しない」「暴力団に利益供与しない」「暴力団と親密な関係にならない」ことを教育し、迷う場合は上長などを通じて責任部署へ確認を取らせるなどの連携が必要となる。また、残念ながら不適切な暴力団との関係が発見された場合は速やかな責任部署への報告が重要で、これが遅延された場合、後日司法関係者からの事情聴取等が想定される場合がある。
当然ながら取締役である者が反社会的勢力と関係があるようでは話にならない。自ら襟を正して率先して対応を推進しなければならない。
法務を担当する部署は、契約の実務として事業に係る契約内容を見直し、暴力団排除条項を導入し、新規に契約する場合は、契約当事者双方が暴力団、構成員、暴力団関係者でないことを誓約し、新規・継続中の両方の条項には「契約の当事者が暴力団関係者であることが判明した場合には、その相手方は催告することなく当該契約を解除することができる」という文言を追記することが一般的である。
これらの条項がない場合、反社会的勢力との間に締結した契約がなかなか切れず、関係がずるずる先延ばしされる可能性があるため、不可欠な条項として対応を急ぐ企業が多い。
現在、暴力団、構成員、暴力団関係者はクレジットカードが使えず、外車も買えず、オフィスやマンションの賃借人にもなれず、宅配便も送ってもらえない厳しい状況にある。保険会社も対象者に対して加入を拒んだり、抗争で死亡した場合等に対して保険金を支払わない方針を固めた。各企業で対応が進む中、個々の企業の対応の格差が出始めている。
広報にも対応状況の探りが入る
私が担当する複数のクライアント企業にも、最近メディアから問い合わせが入るようになった。2カ月が経過し、どの程度社内対応が進んでいるかの確認である。メディア側としては、対策を進めている中での効果検証にも探りを入れてくるのが一般的だが、ブラックリストがあるわけでもなく、「地道に作業を進めている」と答えるしかないのが実情である。
ましてや、現実に対応した取引先等の解除事例などを見せてくれと言われても、第三者に伝えるべきものではなく、法令に従い、必要に応じて公安委員会に事実報告書を添付して報告を行うだけである。そうした事実を外部に宣伝するようなものではない。
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