この国にコーポレートガバナンスは存在するのか
ここ最近、九電(やらせメール)、ゲオ(役員の分裂と不正取引)、オリンパス(不透明なM&Aと社長解任・配転無効の高裁判決)、大王製紙(元会長への不正融資)といった大手企業で、コンプライアンス上の不祥事が相次ぎ、問題になっているケースが多くなっている。
コンプライアンス違反行為が業務作業の現場で発生している状況では、それを適正に管理する体制が整備されていれば、まだ軌道修正は可能だが、その違反行為がシニアマネジメント本人によるものであったり、社内管理体制の深刻な欠陥に基づくものであった場合は、会社運営そのものの機能不全に及ぶことになる。そうなると相互監視というコーポレートガバナンスは失われ、腐れ行く会社の企業風土にストップをかける者はいない。
このような危機的状況の会社では、透明性の高い第三者委員会による詳細な調査が不可欠となる。しかし、一方で第三者委員会が設置されるようでは、もはやその企業の信頼性は完全喪失していると言っても過言ではない。オリンパス事件においても1週間で株価が半分以下に下落するなど、信用毀損のスピードと大きさは経営陣にとってまさに「想定外」であったのだろう。
これまで問題を起こした企業は、社内体制に失敗したばかりか、多くの場合、外的環境の大きな変化、たとえば企業の社会的責任やコーポレートガバナンスなど、ステークホルダーが企業に対する厳しい監視を強めていることに対して極めて鈍感であった。ステークホルダーが「想定内」であると認識している事態も、たやすく「想定外」と言い切る経営陣にマスコミだけではなく一般消費者や取引先も失望を通り越し、あきれている者も少なからずいたことだろう。
広報の仕事は「想定外」を少しでもなくすこと
広報の仕事は事実関係を正確に伝え、会社が伝えたいこと、ステークホルダーが知りたいことを適切なタイミングで認知させることにほかならない。しかし、実際の有事の危機管理広報では、発生事態(すなわち不祥事)の一般的認知、例えば自らの公表やマスコミからの報道等によって一気に拡散した後、それに呼応して対応するだけでなく、誤報道の軌道修正や新たな事態の報告、会社の対応などにも追われることになる。
さらに、行政や司法組織、当該企業が上場している場合の金融商品取引所などは、不祥事が発生する前の社内体制がどうであったのかに関心が及ぶことが通例である。すなわち「経営管理」という視点である。昨今、所管行政より個別行為の違反に加え、社内体制の不備を指摘され「業務改善命令」が出される企業が増えている現象は、当該経営者の経営管理の資質に疑問が生じ、管理態勢に大きな欠陥があると判断される状況が散見されるからである。
図1は、一般的なステークホルダーに対して、行政・司法組織等の視点・関心の違いを表示したものである。また、全ステークホルダーの関心事は個々の内容だけでなく、それが開示されるタイミングにも及ぶ。そのように考えると、事態が発生してからでは証拠保全できていないことや適切な説明ができない事柄が多く発見され、対処に行き詰まることが十分想定される。そう、すなわち、それが「想定内」に準備すべきことである。
図2は、図1で示した予防活動、危機的事態の発生・対処、再発防止策の運用・収束の流れをタイムマネジメントした場合の想定図である。危機は、まさに「想定外」の事象が発生し、完全にコントロールすることは難しいが、「想定内」に封じ込めることは可能である。そのためのリスクの抽出、早期発見を含めた危機管理態勢において、社外の環境の変化をとらえ、社内体制の脆弱性を指摘し、現リスク管理の整備状況を強化させていくことも広報の重要な仕事の一つである。社内に危険なホットスポットが隠れていないかどうか、広報は企業の潜在的リスクのガイガーカウンターとなって、社内外に注意の眼を向ける必要がある。
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