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コラム

CSR視点で広報を考える

自然災害を政策の失敗で国益の損失にしてしまったタイ政権の痛手

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安心情報発表から2日目で危機レベルは最大に 問われるタイ政権の危機管理能力

タイで発生している50年ぶりの深刻な大洪水では、政府の行うパブリックリスクマネジメントについての対応の懸念に各国が警鐘を鳴らしている。地震や津波と違い、洪水は被害の発生直後からその後の危機的事態の進捗、被害の拡大状況がある程度予測できるため、その対策は国家的なリスクとして政府の重要管理政策となる。

今回の洪水でもアユタヤからバンコクへの洪水は4週間から6週間にわたって長期間に国内に大きな影響を及ぼすことが想定されていた。現実に、住民の安全、インフラへの影響、水道・電気などのライフラインの停止、拠点被害による物流の断絶、金融機関の業務停止、感染症の伝播などが相次いで発生している上、何よりも長期間にわたり被害が継続・拡大することから、生活基盤、経済基盤にも損害・損失が広がり、住民や日系企業は大きな不安を抱えている。

テレビでは学識経験者が呼ばれ、一定の条件がそろえばどのような状況に至る可能性があるとの見解は示すが、現実の状況からリスクアセスメントし、どのような対策を打つべきかの具体的な指標や方針を示す者がほとんどいなかったという。

今回の洪水のような事例では、冠水するエリアが拡大していくことから、仮に工場が被害を免れても、原材料を供給するサプライヤーや商品を販売するディーラー(小売店舗)側に被害があれば、結果として商品を売ることはできなくなる。ましてや首都機能が大規模に失われる事態に対しては、機能維持のための危機管理計画が不可欠となる。

タイ政府のホームページ(The Government Public Relations Department)では、10月11日の政府発表において「今回の洪水は国家の存続を揺るがす規模ではなく、十分政府がコントロールできる」としていたが、2日後の10月13日には危機レベルが最大に押し上げられるなど、その後の対応とともに次々にその予測の甘さと管理能力に懸念を露呈させる結果となった。事態が悪化すると政府からの情報は極めて少なくなり、洪水に関する詳細情報を提供するWebサイトでも英語表記はなくなった。

事態の急激な変化にドラスティックに反応したタイ政府は日系企業が多く存在する工業団地などに対して避難命令を出し、立入禁止としたため、政府の洪水対策の具体的方向性や現状の被害状況を確認できないまま、生産停止という窮地に追い込まれた。そんな中、タイ洪水の情報を提供し続けたのはブログやツイッターである。タイに関する一般情報を提供する複数のポータルサイト(http://www.newsclip.be/blog/)や(http://www.caplogue.com/)では、日常的に起きた事件や現場で発生したリスク情報を日本語で提供し続けている。

国益のため、日本政府がついに動いた

ここにきて米国を始め、多くの国がタイへの観光地への渡航延期を勧告している。バンコクでは首都50地区の3分の1の17地区が大きな影響を受け、約半分の地域が少なからず影響を受けた。現在、中部のロジャーナ、サハラタタナコンなどの7工業団地が冠水し、水が引かず730社が被災し、影響を受けた工業団地の従業員は36万人にも及んでいる。この7団地には、ホンダ、ニコン、キヤノン、ソニーなど、日系企業450社も復旧、生産再開のめどが立たないままになっている。

日本政府は異例の措置として操業ができなくなった現地の日系企業で働く数千人規模のタイ人従業員に対して6カ月を限度に日本に受け入れることを決定し発表したが、アジア全体におけるサプライチェーンのタイの位置付けを考えた場合、この措置は人道的にも国益を考えた場合も非常に評価できるものである。この一件大胆な措置は、東日本大震災やその後の原発問題という修羅場を経験した日本政府のDNAが活発に動き出した証拠である。

復旧計画で企業の差別化が明確に 奮闘する日系企業の危機管理計画に注目

洪水被害に対して上場している各社は次々に「タイ洪水被害に関するお知らせ」を開示しているが、タイ政府の公開情報の少なさや対応の遅れなどからリスクアセスメントに誤差が生じ、「続報」あるいは「2報」を開示している企業が多数出ている。

しかし、一方で地震や原発での学習効果があり、情報が少ない中、日本企業の危機管理への動きは他国よりも早く進んだように感じられる。依然として政府の発表する情報は限定的で不透明な状況にあることは間違いないが、各社必至の代替生産ラインの確保や復旧計画の見直しに全力を傾けている。地震や原発のときには鈍化していた経営者の危機感度もあがり、避難計画、リスクアセスメント、復旧計画の3点セットを同時に進行させるなど、積極的な対応を行っている企業も多く見受けられる。

米国企業のなかには機関投資家が洪水リスクを懸念し、大きな被害を受けた同一エリアに対する復旧計画に大きな懸念を示すなど、事業の停止や工場の移転などを含めた抜本的な対策を求められて動きが全く取れない状況にある企業もあり、対照的となっている。各国、各企業が特徴を出しながら危機管理計画を進める中、若干ではあるが日本が具体的対策の駒を進めた情勢だ。

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