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資生堂、東北の臨時災害放送局へ民間スポンサーとして初参入

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24時間放送が続くからこそコンテンツが必要だった

資生堂は5月から東日本大震災の被災地への支援活動の一環として、現地のコミュニティFMに歌と支援メッセージ、絵本を朗読したコンテンツなどを提供している。支援しているのは岩手・宮城・福島のコミュニティFMと臨時災害放送局の十数局。さらに12月には総務省と協力し、キヤノンマーケティングジャパン、パナソニックと臨時災害放送局への運営支援をスタートさせた。

この取り組みの中心メンバーである宣伝制作部の鐘ヶ江哲郎氏は、震災直後に新聞記事で現地の臨時災害放送局の取り組みを知った。資生堂でも義援金や「水のいらないシャンプー」を届けるなどの支援を行っていたが、物資をまんべんなく届けるのは難しいと感じていた。しかし「情報」があれば、支援の格差も緩和できるかもしれない。そう考え「現地の情報の送り手である、臨時災害放送局を支援したい」とトップに自ら提案。4月9日には部下とともに、被災地へとレンタカーを走らせた。

演歌歌手の肉声メッセージやビューティーケア情報も発信

なとりさいがいFM

宮城県名取市「なとりさいがいFM」のスタジオから。
後列右端が資生堂・鐘ヶ江氏。4月から各地のラジオ十数局をまわり、
運営状況をヒアリングした。

現地で沿岸部のラジオ局を訪問して分かったのは、運営資金とコンテンツが圧倒的に足りていないということ。「特に臨時災害放送局は自治体が急きょ立ち上げるケースが多く、ノウハウが不足している。被害状況や犠牲者のお名前が伝えられる環境下で、音楽すらいつから流していいのか判断できない局がほとんどでした。その一方で、法律によって24時間放送を休止できないこともあり、とにかくコンテンツを求めていることが分かったんです」。

そこで鐘ヶ江氏は「東北の港町では演歌が好まれる」と聞きつけ、演歌を使ったオリジナルコンテンツの制作をスタート。小林幸子さんの「おもいで酒」、千昌夫さんの「北国の春」など5曲を選び、それぞれ歌手の皆さんに肉声でメッセージを吹き込んでもらった。さらに母子で楽しめる短い物語を朗読したコンテンツも制作。それぞれCDに焼いて、現地のラジオ局へ直に届けた。

また宣伝制作部に所属する岩手県出身のコピーライターが「被災地での肌と髪のケア」をテーマとした美容情報サイトを企画し、新聞広告として東北の地方紙に出稿するとともに、ラジオ用の音声原稿を制作。ラジオ局でもコーナーを設けて、「できるだけ少ない水でシャンプーする方法」など実用的な情報の発信を続けている。

SHISEIDO

6月には臨時災害放送局とコミュニティFMの役割を伝える、資生堂の新聞広告を東北の地元紙4紙で展開した。

このほか資生堂の美容部員がマッサージやメーキャップに出向く支援活動、夏休みに外で遊べない福島の子どもたちを裏磐梯へ連れて行くバスツアーをコミュニティFM局と共同で実施するなど、活動は広がっていった。

総務省に働きかけ実現 民間企業による共同支援活動

従来の臨時災害放送局は災害発生から数ヵ月後、一定の役割を終えた時点で閉局するケースが多い。また免許人が自治体となることもあり、民間企業による資金面での支援は前例がなかった。ただし今回の震災後は23局が開設され、現在も18もの局が運営を続けている状況で運営が長期化せざるをえない(2011年12月1日現在)。だからこそ資金の不足は深刻な問題となる。

そこで鐘ヶ江氏は総務省に働きかけ、民間企業も局の支援に参入できる形態を立案した。12月から臨時災害放送局で流れる災害情報番組の最後に、提供企業として企業名が読み上げられるようになった。「持続性ある支援を実現するために、これからも多くの企業を巻き込んでいければ」と鐘ヶ江氏。地域に根ざしたラジオを通じた、継続的な支援活動の新たなスキームが生まれている。

「宣伝会議」2011年12月15日発売号の特集「個人とつながる!ラジオの社会性を生かした事例」より抜粋