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31年ぶりの貿易赤字、TPPでどうなる?日本の食文化 「食文化」のなかに宿る 生きる知恵の再発見(2)

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―山形では1989年から「山形国際ドキュメンタリー映画祭」が開催され、今年で11回目を迎えました。これまで消えていった映画祭も数多くありますが、山形では独自の発展を遂げ、国内外から高く評価されています。こんなに映画が盛り上がるのはなぜなのでしょうか。

庄内出身の富樫森監督や「映画24区」のスタッフ、山形市の東北芸術工科大学の学生ボランティアなどが協力して行われた、震災被災地の小学生による映画製作ワークショップ。「豊かな食文化のあるところには人を元気にさせる力がある」と宇生氏はいう。

宇生 映画『蝉しぐれ』を撮影したとき、地元の人たちは「庄内って、こんなにきれいだったのか」と驚いていました。彼らが普段見ているものと、映画のカメラを使って撮影したものは異なり、皆感動してしまうのです。そして、地元の人たちは庄内に誇りを持つようになります。「庄内映画村のお陰で、10年に1回しか見なかった映画を年3回見るようになった」という人も増えています。

しかし、実はもともと山形・庄内は人口当たりの映画館の動員数が全国トップレベルで、映画を楽しむ人が多いという背景があります。そこにもってきて、これだけたくさんの映画が撮影され、ロケなどに地元の皆が協力することになり、非常に盛り上がりました。

見るだけでなく、参加しようという人が増え、今ではエキストラ登録者が2000名を超えています。さらに、東京の「映画24区」の方々や山形市の東北芸術工科大学の学生ボランティアなども加わって、子どもたちに映画の撮り方を教えたり、演技や脚本のワークショップを開催したりと活動が広がってきました。

また、庄内へ来た映画のスタッフたちはまた、「野菜ってこんなにおいしかったんだ」「庄内ってこんなにおいしいものがたくさんあるんだ」と皆、庄内の野菜ファンになります。

―もともとあった文化的素地にうまく映画産業・映画人が調和しているということでしょうか。

金丸 庄内は地元のオリジナリティある野菜がいまも食生活のなかに生きているところが素晴らしいですね。現在スーパーなどで量販されている野菜は、大量生産に適したものに改良されたものが中心で、地域の個性ある野菜は消えかかっています。

私は全国各地で地元の素材を使った料理のワークショップを行っていますが、旬のものには力があり、メニューの付け替えをしても素材がぐんと活きます。スーパーに出荷するには、捨てられてしまうような曲がったキュウリも塩もみしてオリーブオイルと釜焚きの塩とニンニクで和えるだけで、大皿の1品料理になり、感動、喜びが沸いてきます。それが地域の誇り、自信、熱気につながります。それを発見することがワークショップの目的ですが、こういうことは意外となされていないので、映画人がそういうことに気づいてくださることは、食の伝統を守り、地域を活性化していくうえでも非常に大きな意味がありますね。

宇生 「食と映像」に関しては、金丸先生が字幕監修をされた映画『未来の食卓』から大いに影響を受けました。あの映画のなかでは、葡萄農家の子どもたちが農薬の影響でおかしくなっていくという問題提起があって、これを見れば多くの人が疑問を持つようになるでしょう。そういった啓蒙も非常に大事で、その意味で映像が力を発揮していくところだと感じています。

金丸 いま各地で「何とかして地域を活気づけたい」という人たちが増えています。その際、県庁や市役所の人たちが漫然と他地域に研修に行き、「うちでも同様のレストランをつくろう」などと考えるのですが、それでは何も始まりません。

「食」による地域活性化では、地元の素材を活かすため、まずそれを作っている場所へ行って背景から調べます。普段は伝統的な食べ方しかされていない地元の良い素材は、他の素材や料理法と組み合わせても絶対においしいものになります。

そういう意味でも、食の伝統文化を掘り起こし、記録していくことが重要で、私はそれをイタリアのスローフード運動に学び、日本でも拡げたいと考え「食のテキスト化」として、地域独自の一次産品の産地や土壌の成分、育て方や旬の時期、栄養価や調理の仕方、食べ方などを記録する活動も行っています。

これは、何も知的関心や酔狂でやっているのではありません。こういう裏付けをつくっていくことで独自性をもった強い産業が育つのです。実際、地域で食文化の集積化を進めてきたところは、震災後も客数が伸びています。

例えば、愛媛県今治市の直売所「さいさいきてや」は、豚小屋を解体し、テント1枚で始まった市場ですが、1年めから年間2億円の売上げとなり、今では23億円、150万人を動員するまでに成長しました。地元の力、おいしいものを集積することには活力があるのです。

宇生 そういう場所はエネルギーを出しているから「旅のプロ」はすぐにわかります。「旅のプロ」とは、JTBなど旅行代理店の人たちのことではなく、しょっちゅう旅行して各地のおいしいもの、素晴らしい景色を見て楽しんでいる中高年層のことですが、彼・彼女らは、一流の目利きなので、本物と偽物はすぐに見分けてしまうのです。

「31年ぶりの貿易赤字、TPPでどうなる?日本の食文化 「食文化」のなかに宿る 生きる知恵の再発見(3)」へ続く

『人間会議』2011年冬号特集「地産地消へ草の根の改革」より一部加筆して掲載しています。

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連載「食文化の中に宿る生きる知恵の再発見」バックナンバー

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