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31年ぶりの貿易赤字、TPPでどうなる?日本の食文化 「食文化」のなかに宿る 生きる知恵の再発見(2)

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地元作家の映画が地域を愛する人々の心に火を点けた

対談
金丸弘美(食環境ジャーナリスト、食総合プロデューサー)
宇生雅明(庄内映画村株式会社 代表取締役)

金丸弘美(食環境ジャーナリスト、食総合プロデューサー)photo by nobuyuki aoki


宇生雅明(庄内映画村株式会社 代表取締役)photo by nobuyuki aoki


JR鶴岡駅からバスで20分ほどのところにある「松ヶ岡開墾場」のなかにある庄内映画村の資料館(photo by ネットワークユニオン三沢 克年)

―盛り上げるという点では、宇生さんも、『蝉しぐれ』の映画化以来庄内に関わる映画のプロデュースやロケ誘致に取り組まれ、映画村を発信源に庄内鶴岡の活性化をリードしていらっしゃいます。

宇生 そもそも『蝉しぐれ』(2005年、東宝)のプロデュースにかかわったのは、根強い人気を誇る藤沢周平作品のなかでも最高傑作といわれる原作に、私自身がほれ込んでしまったからです。そこから、藤沢周平の出身地である庄内の土地柄にも不思議な魅力と可能性を感じ、庄内地方に関する映画をこれまで11本プロデュースしてきました。

しかし、「庄内映画村株式会社」は、地域の人たちの意欲なくしてできませんでした。2006年7月に設立したのですが、きっかけは『蝉しぐれ』の資料館をどうするかという話から始まりました。

資料館は、JR鶴岡駅からバスで20分ほどのところにある「松ヶ岡開墾場」のなかにあります。ここは、明治維新後、庄内藩士たちが拓いたところで、その中には瓦葺上州島村式三階建の蚕室が五棟現存しています。このうち一棟が修復されて松ケ岡開墾記念館となっていて、明治以降の庄内の暮らしと文化を伝える貴重な民俗資料です。この修繕維持費を地元の人たちが負担していたのですが、これがバカにならない。

そこに映画の資料館やオープン・セットができたことで来館者が10倍、30倍、50倍へと増え、維持費の負担が軽減できるうえ、多くの人が歴史に親しんでもらえるということで、この流れを止めないようにするにはどうしたらいいかと考えました。じゃあ、このセットを利用してもっと映画を撮ればいいということで、ロケ誘致のため東京へ飛びました。そこで『女座頭市』を誘致する案があがったのですが、そのためには5000万円の資金が必要でした。そこで、地元の有志でお金を出し合って株式会社を立ち上げることになったわけです。

―地元の方々の「何かしなければ」という気持ちに宇生さんが火をつけたわけですね。

宇生 地元の有志でお金を集めるにあたって、誰も「ノー」という人はいませんでした。銀行との取引には法人化したほうが良いということで、次に株主はどうする、ということになりました。この会社は地域を元気にするみんなの会社なので、出資者全員を筆頭株主にしてしまおうということで、1口50万円で100口集めることにしました。上も下もなく、一人1口しか許されない。最初は37口でスタートしましたが、今は116口になっています。

これを知った総務省に取り上げられて「ソーシャル・ビジネス・カンパニー」としてあちこちで紹介されるようになりました。来年はさらに、2本を製作予定です。その中で「食文化」の映像化や食の映画祭も計画しています。

映画と食をつなぐことで生まれる相乗効果

ニューヨーク・マンハッタンにあるオイスター・バー(photo by Umamimart)

―庄内で「食」に関心を寄せるようになったのはなぜなのでしょうか。

宇生 そのきっかけもまた、庄内の地域性にあります。庄内映画村には、お客さんに料理を提供するシェフたちがいます。冬場はお客さんが来ないので閉店しますが、オープン・セットの建物を維持するため、毎日雪かきをしていました。しかし、「シェフが雪かきばかりしているのはおかしい」と感じ、冬場も市の中心部で店を開くことになりました。

庄内に行くようになってから7年ほど、スタッフともども温泉宿を常宿にしていましたが、野菜不足で体調を壊す者が出てきました。地元の人の感覚では野菜は家の畑で作って食べるもので、お金を出して外で食べる習慣がないので、外から来た人は宿の食事や外食でも野菜を食べることができなかったのです。

そこで野菜中心の鍋料理の店を作りました。次に考えたのがニューヨーク・マンハッタンにあるようなオイスター・バーでした。最初、地元の方には「とれたてのおいしい生牡蠣が食べられるのに、揚げるとはけしからん」と怒られました。しかし、「まあ、だまされたと思って一度食べてみて」と言って揚げてもらったら、地元の方はあまりのおいしさに驚いていました。衣で覆って加熱することでうま味が凝縮されるのです。そうして、夏場はオイスター・バーがオープンすることになりました。

―来年撮影予定の映画『寿司ポリス』はそうした庄内の食文化とかかわるなかで生まれてきたわけですね。

宇生 来年製作がスタートする『寿司ポリス』は、マレーシアと庄内をつなぐコメディ映画です。架空の話ですが、庄内生まれの外交官志望の女性が外務省に入り、「日本の食文化の伝統を守るために取り締まる課」という部署に配属されます。そしてマレーシアに勤務することになるのですが、海外では日本の伝統を無視したとんでもない珍料理が日本食として出されている。そこで彼女は、「取り締まるだけではだめだ。本当の日本食を教えよう」と決意し、活動するようになるというストーリーです。

―「食」と「映画」のコラボレーションは、地域活性化に大きなポテンシャルをもっているといえそうですね。

宇生 来年『寿司ポリス』の公開と同時に鶴岡市と連携し、「食の国際映画祭」を開催することになっています。映画を見た後、「うまそう。これ絶対に食べたい」と思わせるような映画祭にしたいと思っています。おいしいものを食べると皆笑いが出て、幸せになってしまうものです。これは「食」による最高のプレゼントで、そういうことをどんどんやりたいと思っています。

金丸 私も藤沢周平原作の映画や『おくりびと』『13人の刺客』など、庄内で撮られた映画を見ました。見ていると、庄内のカラーが見えてきます。また、実際にロケ地を訪れると、映画を超えた魅力を発見できます。そういう意味で、食文化の再発見と地域活性化のために、映画に大きな可能性を感じています。

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