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31年ぶりの貿易赤字、TPPでどうなる?日本の食文化 「食文化」のなかに宿る 生きる知恵の再発見(3)

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いまあるものを別の視点から組み立て直すことで地域が自信を取り戻す

対談
金丸弘美(食環境ジャーナリスト、食総合プロデューサー)
宇生雅明(庄内映画村株式会社 代表取締役)

――地域活性化には、地元の歴史やオリジナリティが欠かせないものなのに、その魅力に気づいていない地域の方が多いようです。地域の核になる魅力を発掘していくために、何が必要でしょうか。

地域活性化には、どこの地域にもある独自の魅力の発掘・発見が不可欠という点で、金丸氏(左)と宇生氏(右)の意見は一致した。

宇生 私が最初に庄内へ行ったとき、多くの方から「町を豊かにするためには、土木業が一番」と言われました。40年前の「列島改造論」の発想です。しかし、イタリアの古都へ行くと、各都市が独自の個性を残すために大きな資金や労力を注いでいます。建築物や石畳の街路はもちろん、家具や衣服などのものづくりや食も同様です。そういう個性に魅力を感じ、多くの人が訪れます。

日本は最近ようやく、それに気づき始めたのではないでしょうか。旅の本当の魅力は、その土地の本来の歴史やローカリティを感じることです。また、それを感じられるところには、「また行こう」と思うものです。

金丸 2004年に日本でも景観法が制定され、愛媛県の内子町や大分県の臼杵市、岐阜県の高山市など各地で景観条例に基づいた街づくりが進められています。滋賀県の長浜市では、景観を守るため、1件200万円の補助金が出ます。この補助金を得るには、地元の職人や大工さんが作業を行い、地元の物語を入れなければなりません。そこで、地元の人が改めて地元について学びます。

そして補助金を得た商店街の人たちはせっかく改装するんだから思い切ってやろうと張り切って、さらに500万円ほど自己資金を出して景観保護を進めます。地元の大工さんも昔の屋根瓦を作るんだと張り切って、お金の価値以上の素晴らしい仕事をしたりするのです。こうして街づくりが進められ、現在、長浜市には、年間約200万人の観光客が訪れるようになっています。イギリスにはそういう場所が9000ヵ所もあるそうですが、日本ではまだ、90ヵ所ほど。各地の事例を見れば、伝統文化のソフト面に配慮することで、地域が生き返ることがわかると思います。

宇生 もうひとつ、地域を盛り上げていくにはやはり、金丸先生や私のような「クレイジー」な人がいて、それに賛同する人たちが5、6名いるような状況が必要です。お役所的な発想で四角四面に考えても楽しくないので、「ちょっとこの人、大丈夫かな?」というくらいの思い切ったことをするにはやはり民間の知恵とエネルギーが必要です。

金丸 飛騨高山のワークショップでは、最初はみんな「東京へ持っていって野菜を売る」ことを考えます。私はその人たちを1年かけて説得しました。「首都圏の人にお爺ちゃんの家に来てもらって料理を作って食べさせましょう」というと、最初は地元の人は「この人頭おかしいんじゃないか」と言わんばかり。「こんな田舎のぼろ家に本当に人が来るのか?」と。しかし、その家とは150年前に建てられたいろりのある家です。いろりを囲んで銘々膳で食事をします。銘々膳は、いまは時代劇で見るものになってしまいましたが明治維新以前の日本ではこれが当たり前でした。

これを150年前の家での食事を体験できるツアーを開催しました。現地集合・現地解散、1万5000円で、ガイドも農家の方にやってもらい、自分たちの村の昔からの暮らしや歴史について語ってもらいます。また地元の人ばかりのお祭りやカボチャの出荷場へ、観光客を「特別招待」します。これらは地元では観光とも、もてなしとも思われていなかったことですが、訪れた観光客は感動し、涙する人までいます。

金丸氏が紹介する高知の食品

地域づくりの会しゃえんじり 田舎寿司弁当

地域づくりの会しゃえんじり 田舎寿司弁当

米米ハート 米粉パン

米米ハート 米粉パン

苺倶楽部 苺チーズケーキ

苺倶楽部 苺チーズケーキ

四万十ドラマ しまんと地栗渋皮煮

四万十ドラマ しまんと地栗渋皮煮

  • 地域づくりの会しゃえんじり 田舎寿司弁当
    高知県の山間地帯に伝わる、山の幸を生かして作られた「地域づくりの会しゃえんじり田舎寿司弁当」。中国南部原産で、明治時代に高知へ入ってきた四方竹(しほうちく)などを使っている。
  • 米米ハート 米粉パン
    JA土佐れいほくの直販所「八菜館」にあるパンの店「米米ハート」で作られたパン。地元産の米粉を使って数十種類のパンが作られており、中に入っている餡やクリームなども地元産の手作りのものにこだわっている。
  • 苺倶楽部 苺チーズケーキ
    クリームチーズに苺ピューレをたっぷり使った「苺倶楽部 苺チーズケーキ」。底のタルトの上には苺ジャムをたっぷり乗せ、蒸し焼きにしている。
  • 四万十ドラマ しまんと地栗渋皮煮
    四万十川流域で育った大きな地栗で作られた「四万十ドラマ しまんと地栗渋皮煮」。外皮や筋は手作業で一つ一つ丁寧に取り除き、砂糖で煮込み、しっとりとした食感に仕上げている。

伝統的な暮らしのなかにある地域の歴史や人と人とのつながり、自然環境と調和した暮らしの美しさやユーモアなど、いまの日本人が求めているものがすべてあるのに、気づいていない人が多いのです。地域活性化には、自分たちのところにあるものを発見し、それに自信を持つことから始まるのです。

宇生 庄内映画村の成功に倣いたいと他地域に招かれたこともあります。しかし、どこかで成功したものを右から左にもってきてもうまくいくものではありません。地域の魅力は一つとして同じものはないのです。

じゃあ、他地域は関係ないかというとそうではありません。おらが町、おらが村の魅力を知るためには世界や日本の各地の魅力を知ることも必要です。いろいろな場所を訪れて見て聞いて味わって、どこが違うか、どこが共通しているか、どうすればそれを伝えることができるのか、考えることも重要です。

宇生氏が紹介する庄内の食品

ハタハタの湯上げ

ハタハタの湯上げ

もってのほか

もってのほか

カラドリイモのポテトサラダ

カラドリイモのポテトサラダ

岩のりのおにぎり

岩のりのおにぎり

  • ハタハタの湯上げ
    庄内地方では、お湯で煮て「湯上げ」にするのがハタハタの伝統的な食べ方。あっさりした味で、大根おろしと醤油などをかけて食べる。
  • もってのほか
    庄内産の食用菊を出汁醤油につめこんだ「もってのほか」。名前の由来は天皇家の菊の花の御紋を食用にするところからきているとか。前菜にぴったりのしゃきしゃきとした歯ごたえが楽しめる一品。
  • カラドリイモのポテトサラダ
    庄内地方で古くから作られてきた里芋の一種「カラドリイモ」。親イモ、子イモ、茎、葉、根まで、すべて食べることができる。「カラドリイモのポテトサラダ」は宇生さんの創作料理。サラダには地元産の庄内柿も使っている。
  • 岩のりのおにぎり
    寒い冬に収穫される高級食材、岩のりを使ったおにぎり。お米は山形のブランド米「つや姫」を使っている。艶、甘味、旨みで評判のつや姫は、冷めてもおいしいのが特徴。

他地域と互いに連携し、合宿などを通じて教え合い、ノウハウを共有化することによっても活性化していくこともできると思います。大儲けできなくても、小さくても自分たちで創造していく楽しみは一度味わったら病みつきになります。庄内の人たちがそうです。地域発の映画文化を育みはじめた映画村のプロジェクトにご期待ください。 (次のページへ続く

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