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プリンター・メーカー6社が生物多様性と震災復興にセットで取組む(2)

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※「プリンター・メーカー6社が生物多様性と震災復興にセットで取組む(1)」 はこちら

――インクカートリッジ里帰りプロジェクトでは、どのようなフローでリサイクルが行われるのですか。

インクカートリッジ里帰りプロジェクト

インクカートリッジ里帰りプロジェクトでは、回収拠点や回収数量、認知度アップを目指して2ヵ月に一度、プリンター・メーカー6社と日本郵政のメンバーが集まって会議を行っている。里帰りプロジェクトへの取り組みがきっかけで共同輸送が進み、エネルギーコスト削減や物流の二酸化炭素排出量の削減にもつながっているという。

中山 家庭用から出る使用済みインクカートリッジの数は、国内だけでも年間約2億個と推定され、そのうち約10%しかメーカーで回収できていませんでした。これは、裏を返せば、まだ回収・リサイクルの余地があるということです。そこで、メーカー6社が共同回収することで回収率や輸送効率を上げ、精度の高いリサイクルでバージン材の利用を減らしていくことを目指しました。

久米 回収後は、インクカートリッジをメーカーごとに仕分けし、各社が責任をもってリサイクルします。キヤノンでは、インクを取り出し、細かく粉砕してペレットにして再度製品へとマテリアルリサイクルしています。割合としては、マテリアルリサイクルが8割、残りがサーマルリサイクルされます。一部リユースカートリッジとして販売しているメーカーもあります。このように、効率よく資源を再生利用できるのは、製品の構造や部材を知っているメーカーだからといえます。

神阪 最近は、お客様からのお問い合わせの中でも、回収したものがその後どうなっているのか知りたいという内容が増えています。そのため、エコプロダクツ展などの展示会で、使用済みインクカートリッジのプラスチックでつくったボールペンやクリアファイルなどをお渡しして、メッセージとしてわかりやすく伝える努力も続けています。

久米 プロジェクトの回収拠点は現在、環境省の広域認定制度を取得して、全国の郵便局で約3600カ所、125の自治体の役所や庁舎のほか公民館・地区センター・ケアプラザなどに約1700カ所、そのほか各メーカーで学校でのベルマーク回収などを行なっています。

回収実績は、初年度の2008年度は70万個、2009年度は130万個、2010年度は160万個、今年度は震災の影響等で目標の200万個には届かないものの180~190万個と見積もっています。もう少し認知度をあげてより多くの使用済みインクカートリッジを回収したいところです。

――インクカートリッジには、プリンター・メーカーの純正品のほか、非純正のものもあり、ユーザーはどちらを選んだらよいのか迷ってしまいます。

中山 互換インクカートリッジは値段も安く、購入する人が多いのも事実です。ただ、リサイクルについては、純正品は構成する素材をメーカーはすべて把握していますし、拡大生産者責任のもとで適正な処理を行っていますが、残念ながら、非純正品に関してはどう処理されているのか正確にはわかりません。性能に関しても、プリンターは精密機械で電気的に複雑な組合せで構成されているため、素材がわからない非純正インクカートリッジがプリンターの故障原因になることも少なくありません。

あくまで参考ですが、IT関連機器やソフトのテストを専門に行う国際的な第三者機関アリオンが調べたレポートによると、インクが流れ出て印刷物や机、手を汚したりインク量が減少したり、純正と比較して印刷枚数が2割ほど減少するなどのケースも報告されています。機器の使用年数まで含めた製品のライフサイクルで考えると、メーカーの純正品を選んでいただき、使い終わったカートリッジは「里帰りプロジェクト」を通じてメーカーと一緒に環境への取組みに参加してほしいと思います。

――競合するプリンター・メーカーが、プロジェクトを通じて協力することでどんな利点がありますか。

中山 現在、量販店等へのインクカートリッジやプリンターの物流は、地域ごとにメーカーが共同で行っています。これにより、物流コストを削減できるだけでなく、輸送距離や回数を減らして全体のCO2削減にもつなげているわけですが、実はこうした取組みは同プロジェクトをきっかけに関係づくりができたからこそ実現したものでもあります。プロジェクトの会議は2カ月に1回程度、関係者30~40人が集まり熱いディスカッションを繰り広げています。プロジェクトの憲法のようなルールがあり、ここではビジネスの話はしないことになっていますが、こうした場で人的交流を深めることによって、CSRの面では積極的に協力体制を築いていきたいと思っています。

里帰りプロジェクトも今後、アジアを中心にグローバル展開させていきます。昨年11月にはシンガポールでも回収を始めました。アジア3R推進フォーラムや里山関連の会議に出席して講演を行うなど、広報にも努めています。里山保全のモデルケースを増やし、世界中の里山に展開するためにはやはり市民への伝達が重要です。こうしたことは行政より民間の得意とするところですから、今後も業界一丸で協力していきます。

旅行やイベント、家族や友人との楽しい思い出をデジカメやスマートフォンで写真に撮って自宅でプリントアウトしたり、ハガキに印刷して近況を伝えたり、自宅で手軽に思い出をかたちにできる時代だ。

しかし、昨年の東日本大震災では、こんな当たり前のことが当たり前でなくなった。津波に流されて跡形もなくなった自宅周辺を歩きまわり、やっと見つけた思い出の写真に涙する人々の横顔は、ボランティアで被災地を訪れた人にとっても、テレビの画面で見た人にとっても、いまだ記憶に新しい。

キヤノンは、スターバックス、松下政経塾、フォトジャーナリストらと協力して「道のカフェ」にも取り組む。被災地に特設カフェを設置、そこに集まった人の写真を撮影し、新たな思い出づくりの贈り物をするというものだ。こぼれる人々の笑顔のなかに、震災を超えて新しい社会を築くヒントが隠れているのかもしれない。身近な家庭用プリンターを切り口に、メーカーとユーザーが一緒に取組む「里帰りプロジェクト」の広がりに期待したい。

※「プリンター・メーカー6社が生物多様性と震災復興にセットで取組む(1)」 はこちら

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