『ブレーン』では佐藤可士和さんが美大生からの質問に答える連載コーナー「美大生からトップクリエイターへの質問」を掲載しています。本記事は、『ブレーン』2012年3月号(連載第8回目)掲載記事の転載です。
連載「佐藤可士和さんに質問」はこちら
(立命館アジア太平洋大学 国際経営学部 1回生 上尾晃司)
A.複数の視点を切り替えて見る
3つの要素のバランス
広告を見るとき、大きく分けて3つの目線で見ています。「消費者から見た目線」「ビジネスの目線」、そして「クリエイターとしての目線」。どれも兼ね備えた広告というのは少なくて、「すごく人気だけれど、必ずしも売上げや企業の価値につながっていない広告」や、「広告業界的では話題にならないけれど、実際にモノがとても売れて、ブランドにも貢献している広告」などそのバランスはさまざまです。3つの要素がすごく高次元でバランスが取れていれば、その広告は理想的と言えます。つまり、消費者から見てとても魅力的で、かつモノが売れて、商品や企業イメージも上がって、クリエイティブ的にも新しいことができている。それができたら、最高ですよね。
実際の仕事では、全てのプロジェクトに3つの要素が高次元で求められるわけではありません。広告業界的には評価されないような“ベタ”な表現の広告も、マーケティング戦略として確信犯的にやっていることもある。要するに、クリエイティブだけ、あるいはビジネスだけなど、固定された目線で見ていては、そのプロジェクトが成功しているかどうかはわからないんです。一括りにいいとか悪いと言うのは、すごく狭い視点からしか見ていない可能性があります。
特に、広告のつくり手でありプロであるならなおさらです。ひとつの広告をいろいろな視点から評価して、どこがよくてどこが悪いのか、冷静にウォッチする必要があります。
視点を広告業界から解き放つ
学生にとって一番難しいのは、ビジネスの目線でしょうね。つまり、企業の目線に立って、広告の目的やゴールを考えること。僕も学生の頃は全然わからなかったし、社会人になっても最初はわからなかった。でも、それが理解できないとこの仕事はできません。
「売る」ことを考えるのは、広告業界の現場で働く人間にとっても難しいことです。広告のつくり手は、無意識のうちに「広告をつくること」をゴールに考えがちです。そうした意識で考えられた広告を提案しても、経営者には響きません。なぜなら、経営者は広告をきっかけにモノを売りたいと考えているから。広告から先が見据えられていない提案は響かないんです。広告を売りたいわけじゃないんだと、なかなか伝わらないのは、視点が広告業界に固定されているからでしょうね。一度突き放して、モノを売るとはどういうことか考えないと。わからないなりにも考え続ければ、必ず答えに近づいていきます。
自分の成長に必要なクリエイターの目線
3つめのクリエイターの目線は、クリエイターの職能に関わる大事な部分です。せっかくこの職業についているならば、同じ課題に取り組むのでも、より鮮やかなクリエイティブで問題を解決した方がいいじゃないですか。
たとえクライアントがそこまで求めていなくても、よりよいクリエイティブを求めるのは、自分の職業に対するこだわりや、誇りだと思います。いい意味での職人的な誇りは、クリエイターには絶対に必要なものです。3つの目線を、バランスよく養っていってください。
(プロフィール)
佐藤可士和
アートディレクター/クリエイティブディレクター。1965年生まれ。多摩美術大学卒業後、博報堂を経てサムライ設立。主な仕事にユニクロ、楽天グループのクリエイティブディレクションなど。
シリーズ【佐藤可士和さんに質問】
- 「入社後は皆同じように仕事が与えられますか?」(第7回)
- 「作家性の高い作品にも取り組んでいくのですか?」(第6回)
- 「毎日必ずすることは何ですか?」(第5回)
- 「採用面接では、何を見ているのですか?」(第4回)
- 「震災で何が変わりましたか?」(第3回)
- 「日本人の強みは何だと考えますか?」(第2回)
- 「美大生がもっと勉強すべき分野は何ですか?」(第1回)
人気アートディレクターである著者が、学生との一問一答を通じて、やさしく、わかりやすく、ズバッと答えます。月刊「ブレーン」での好評連載にオリジナルコンテンツを加えて書籍化。
定価:¥ 1,050 発売日:2012/12/25
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