「スマート×リーン戦略」
こうした考えを踏まえて図3を観てみましょう。これは「スマート×リーン戦略」という一橋大学の名和高司教授のグループによる考えです。これまで紹介してきた枠組みでは競争優位性を「低コスト」と「差別化」と分けていますが、この「スマート×リーン戦略」は、それらを両方追求することだってあるでしょう、という考え方です。
非価格価値(差別化)をスマートかダルか(良いか悪いか)、顧客負担をファットかリーンか(無駄が多いか節約をきちんとしているか)という軸で設定。図3に「あるべき姿」と表示されているように、つまりしっかりコストを削れるところは削って、同時に非価格価値を追求するのがあるべき姿ではないかというのが彼らの提出した考えです。それについては全くそのとおりだと思います。企業のプロモーション施策はだいたいこういう具合に収斂されていくのではと思います。それが将来のあるべき姿で、これをいかにうまくできるかがポイントになって来ると思います。
では、「スマート×リーン」戦略の事例を見てみましょう。図4にあるように、そのモデルを実践している企業として、ユニクロが当てはまると私も思います。同社は「スマート・カジュアル」という立ち位置で、1円でも安く商品を提供して、しかも消費者のニーズをできるだけ捉えようと努力しています。こういう型が、SMやGMSを含めて手本になっていくと思います。
GMSの方向としては、小さな店で地域に密着し、店の数を多くしていこうとしています。ただ、地域密着サービスを実践するには、人材育成がまだ追いついていない印象があります。地域密着がうまくいっている企業の成功理由は、やはり人。人材の育成とそれをどこまでシステム化できるかがとても重要だと思います。
プロダクト・イノベーション
次に、非価格商品の訴求にあたって、実現すべきニーズがどういうニーズかを探らなければならないという調査の課題が出てきます(図5参照)。マーケティングリサーチに対するニーズとして、まずプロセス・イノベーション的なリサーチがあります。これは改善を目的とした調査です。定量型アプローチで、改善、改善ということで、イノベーションが生まれにくいのです。すぐに追随され、どうしてもコモディティ化(差別の均質化)して価格競争に陥る。これが今のメーカーの一つの現実です。このプロセス・イノベーションの対局にあるのが、プロダクト・イノベーション的なリサーチです。これはいかに画期的(ブレークスルー的)な製品を作るかが目的で、それに合った定性的なアプローチが必要となってきます。その一つが、我々の「価値創造型プロモーション」のような消費者の深層心理から仮説を導くインサイト分析からイノベーションを探りだすという手法です。
もう一つは中京大学の日比野省三教授が提唱している「ブレイクスルー思考」で、これは本質(コンポン)を考えます。目先にとらわれることなく、本当の目的は何だという本質から探って、ブレイクスルーを達成しようという考え方です。こういった考えを中心として仮説を導出し、それから定量アプローチで需要量を推定し、実証できれば、店舗実験の段階に入るということです(図5右下)。その際、小売で全て行うというのは無理で、小売でできるのは消費者まわりのニーズの把握で、製品でそれを達成するためにはメーカーの協力が不可決です。NBにしろPBにしろ、メーカーと小売が創りあげていかないとイノベーションは生まれません。今日実は一番言いたかったはこのことです(笑)。
→ 次回「コープさっぽろの事例に続く」
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