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社会の課題を解決するCSRは 社内の課題と向き合うことに始まる

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実効性を高めるうえで欠かせない人事評価システムとの連動

組織体制や仕組みができたところで、次の課題はCSRの成果をどう評価するかだ。営業成績が数字で明確に現れる事業部門と比べると、一般に、社会貢献を主題とするCSR活動の評価は曖昧になりやすい。ISO26000は、本業における社会貢献を目指しているが、企業活動を維持していくには経済価値とのバランスをとって進めていかなければならない。そこで、CSRをどう評価するかは、多くの担当者が頭を抱える問題だ。

加えて、CSRに限らず、ビジネスパーソンの多くが会議の半分以上がムダと感じているというデータもある。目的や目標が明確になっていなかったり、評価システムが確立されていなかったりすると、「何をやっているのかわからない会議」になってしまう。 

その意味でCSRの会議は二重のハンデを負っていることになるが、こうした問題をクリアするべく、セブン&アイグループの各部会では必ずKPI(重要業績評価指標)を設定しているという。「問題の所在」「改善策の立案」「実行計画」「目標と達成度」を明確にし、これをPDCA(プラン・ドゥ・チェック・アクション)でまわしていく。そのために、定量評価を組みこみ、人事評価と連動させるようにしている。

たとえば、衣料・住居QC(品質管理)プロジェクトが主催で行っているグループ仕入れ担当者向け研修会では、研修終了後、確認テストを実施し、出席者の理解度をチェック、結果を部門長に報告する。こうすることで、適度な緊張感をもって研修に参加させる、また研修内容への理解度の促進、さたに各社、各部内でのマネジメントのアップにも活かしているようだ。

今後の課題は、いかに「守り」から「攻め」につなげていくか。現状のプロジェクトは法令遵守・法令対応に偏っており、社会の課題解決につながる商品やサービスが生まれてくることが今後の課題だ。

知見を活かしつつ必要なものだけを取り入れられる自由度の高さが利点

CSRの統合と改革を進めてくるなかで、セブン&アイが、小売業として初めてISO26000を取り入れた理由はどこにあるのだろうか。

「持株会社設立後、グループ会社が増え、事業領域が拡大するなかで、社是の再認識や企業行動指針を改定するうえで、ISO26000のほか、経団連の『企業行動憲章』、経済同友会の『企業行動規範』、国連グローバル・コンパクトの『10原則』などを参考にした。CSRの課題は多岐に渡るため、社外の様々なリソースを活用しながら自社の取組みを見直す必要がある。ISOはやはり海外サプライヤーへの対応で有効だ」(伊藤利彦氏)

伊藤氏らは、昨年中国の取引先でCSR監査のトライアルを行い、海外では特にISO26000が有効であることが確認できたという。

セブン&アイは国内外に2万社のサプライヤーをもつため、その影響力の大きさを考えると、特にバイヤーが社会的責任を理解することが重要になる。セブン&アイで2007年に『お取引先行動指針』を策定、今回ISO26000の発効を受け、「事業活動の影響力が及ぶ範囲すべてに責任が及ぶこと」「問題に対してアクションを起こさないということは悪い事業に加担しているのと同じ」という点を重視し、「セルフチェックシート」も改訂した。現在グループの戦略的商品であるセブンプレミアムの全取引先とイトーヨーカ堂が海外から直接輸入しているお取引先向けに改訂版のチェックシート提出をお願いしている。

もうひとつ、ISO26000の利点は、第3者認証を必要としないガイドラインであり、自社に合ったものだけを取り入れられることだ。CSRレポートを作成するうえでの有識者とのダイアローグを通じて整理されたセブン&アイの取組むべき課題を参考にしながら、自社の取組みを客観評価し、足りないところには対策を講じればよい。必要に応じてフレキシブルに活用することでゼロからCSR基準をつくる負担を大幅に軽減できる。

セブン&アイの取組みから、本業を通じたCSRの実践は、社内の声に耳を傾け、課題解決のための仕組みをつくることに始まることがわかる。その際には、問題の本質に迫る深いレベルのコミュニケーションが求められる。同時に、ISOをはじめ、企業の外にある基準や見識に学び、深い洞察力をもって自社を客観視する必要がある。つまり、CSR部は企業の内側と外側にある課題を深く包括的に理解し、解決を見出していくという重責を担うことになる。
難題であるが、この解決を目指すうえで、小売業は異業種にない強みがある。顧客とサプライヤーのインターフェイスであるため、双方に働きかけることができるからだ。その意味で、小売業トップのセブン&アイグループがISO26000を取り入れ、本業を通じた社会の課題解決に本気で取組みことへの期待は大きい。

伊藤順朗

伊藤 順朗(取締役執行役員 CSR統括部シニアオフィサー)
CSR統括部では、社会的責任の国際規格である「ISO26000」や「経団連企業行動憲章(2010年改訂)」などを参考に、CSR体制の課題を整理し、グループ全体でCSR活動を効果的に推進するための取組みを進めてきた。組織改編から約1年半、グループ全体にCSRの概念が浸透してくるなかで、今後はコンプライアンスを中心とした「守り」のCSRのみならず、より積極的に社会の課題解決に取組む「攻め」のCSRにも取り組んでいきたいという。

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『環境会議』『人間会議』は2000年の創刊以来、「社会貢献クラス」を目指すすべての人に役だつ情報発信を行っています。企業が信頼を得るために欠かせないCSRの本質を環境と哲学の二つの視座からわかりやすくお届けします。企業の経営層、環境・CSR部門、経営企画室をはじめ、環境や哲学・倫理に関わる学識者やNGO・NPOといったさまざまな分野で社会貢献を考える方々のコミュニケーション・プラットフォームとなっています。
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