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社会の課題を解決するCSRは 社内の課題と向き合うことに始まる

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セブン&アイ・ホールディングスでは、CSR統括部を設立すると同時に、これまでグループ各社でバラつきのあったCSR活動を見直し、グループ全体での推進体制づくりに努めてきた。持株会社設立後、グループ企業数の増加や事業領域が拡大する中で社是の再認識や企業行動指針の改定とともに、法令や条例への対応などグループ各社の現場が抱える課題に即したプロジェクトを立ち上げ、サプライチェーンと協働の取組みにも注力する。この間、ISO26000はどのように活用されたのか、推進の中核を担うCSR統括部のリーダーに聞いた。


取材協力
伊藤 順朗 セブン&アイ・ホールディングス 取締役執行役員 CSR統括部シニアオフィサー
伊藤 利彦 セブン&アイ・ホールディングス CSR統括部オフィサー

「ためになるんだよなあ、このプロジェクト」
セブン&アイ・ホールディングスが行っている、CSR統括部・消費者行動部会のQC(品質管理)プロジェクトの会議で参加者の一人が発した一言だ。この会議では、食品パッケージの表示で「増量」「大盛り」「完熟」など、JAS法や食品衛生法の対象外である曖昧な表現に関して基準を明確にするための勉強会が行われた。

「売りたい」気持ちが強く出るあまり、商品パッケージやPOPに、明確な根拠もないままに誤解を招く表現を使ってしまうケースがある。そこで、同社グループでは、「たっぷり・大盛り」と表示する場合は、通常ないしは市販品平均の20%以上とする、「完熟」という言葉は使わないなど、グループ全体で基準を共有することにしたのだ。

こうすることで現場の担当者の負担を大幅に軽減でき、顧客の信頼を失うようなリスクもなくすことができる。

CSR統括部CSRオフィサーの伊藤利彦氏は、参加するグループ各社の担当者たちが活発に意見を交わす様子を見て、CSRの新たな取組みの「手ごたえを感じている」と話す。この会議が活性化している理由は2つ。グループ各社ともに同様な課題に直面しており、その課題解決に有効なグループ会社の情報を提供を強く望んでいる点。また、成功事例だけでなく、失敗事例も共有し、グループ会社における再発の未然防止に努めていることがあげられる。

グループのシナジーを最大限生かし、スピード感をもって課題解決に対応

同社では、2010年4月にCSR統括部を設立した。前述のプロジェクト会議は、この組織改編により始まったものだ。開催頻度は会議によって異なるが、品質管理のプロジェクトではほぼ2週間に1度行われているという。会議を重ねるとともに「CSRとは何かが全社に浸透してきた」という。CSR統括部の設立が決まってから、取締役執行役員でCSR統括部シニアオフィサーの伊藤順朗氏らは、グループ各社を訪問し、グループ一体でCSRに取組む必要性を説明し、プロジェクト会議への参加を要請してまわったという。

「これまでは総務部と兼務など、組織体制も内容もやり方も、もちろんCSRレポートのつくり方などもバラバラだった。グループのなかでも、省エネやリサイクルなどを徹底しているトップランナーもいれば、基本的な法令対応で手いっぱいという企業まで、差が大きかった」(伊藤順朗氏)

次に、伊藤氏らはグループで取組むべきCSRについて、ISO26000、経団連の『企業行動憲章』やOECD『多国籍企業行動指針』の改訂版などを参考にしながら、本業と社会的な課題との関係性について議論を行い、取組むべき領域や課題を抽出、整理、優先順位付けを行った。

とはいえ、言うだけなら簡単だが、CSR統括部の努力は並大抵ではなかったようだ。セブン-イレブン・ジャパン、イトーヨーカ堂、そごう・西武といった小売業を主軸に、金融やIT、通販など多様な業態の企業が100社を超え、総売上9兆円、グループ連結従業員数13万人という巨大グループのCSRの整理を想像すると途方もないことになりそうだ。

この間のCSR推進体制の見直しのポイントは3つ。まず、取締役会の下に位置づけられた社長を委員長とするCSR統括委員会と傘下の3つの部会に組織を改編した。これにより、トップダウン、ボトムアップの意思決定がスピードアップする。

新たにできた部会は、グループ全体のコンプライアンスの徹底と働きがいのある職場づくりを目標とする「企業行動部会」と、お客様への対応、商品の安全・安全の確保、さらに取引先との校正な取引の維持を目標とする「消費者・公正取引部会」、そしてCO2の削減、廃棄物の削減、さらに3Rの推進を目標とする「環境部会」の3つ。各部会は4半期に1度開催、部会の下には部会の目標を達成するための課題別プロジェクトが設けられ、2週間~1カ月に1度、各社の担当者が集中討議し解決策を立案する。その後部会の承認を経てグループ全体で実行に移される。冒頭の商品パッケージに関する基準も、今後グループ各社で共有・徹底されていくことになる。

グループ各社にCSR課題アンケートを実施 現場のニーズに即したプロジェクトを編成

「CSR統括部になったことで、まわりの見る目が変わった」(伊藤順朗氏)

以前はグループ社員でも、食品残さから堆肥化した肥料を活用する農業生産法人のセブンファームがCSRとは意識していなかったという。それが就農人口の減少・高齢化、耕作放棄地の増加、さらには食料自給率の低下といった社会課題と関連付けて説明することで、CSRとは何か認知されるようになった。また、組織改編とともに各社にアンケートを実施したところ、「コンプライアンスやCSR関連で困っていることがたくさんあり、グループ全体で取組むことで、各社の担当者の負担を軽くすることができるとわかった」(伊藤利彦氏)という。

たとえば、今年4月からの労働基準法の一部改正により、企業は定年延長と継続雇用制度に対応しなければならない。合わせて「障害者雇用促進法」の対象についても50人以上の企業に拡大される。障害者雇用への対応については、各社がこれまで個別に説明会を開催していたが、グループで合同説明会を開催したほうが企業・障害者双方にメリットがある。

「現状では企業と障害者が出会う機会が限られている。セブン&アイグループ全体で合同説明会を行えば、採用される側は1度に複数社の面談を受けられるし、グループ各社も法令対応がやりやすくなる。マッチングの機会が多ければ障害者雇用のチャンスは広がる」(伊藤利彦氏)

アンケート調査の結果分析し、社会的な課題とも照らし合わせながら、顧客のニーズや現場の課題に即した「役に立つCSRプロジェクト」を目指したことで、冒頭のように、会議参加者から「ためになる」発言が出てきたといえそうだ。

CSR活動が事業部門に広がらないという悩みを抱えるCSR担当者は少なくないが、セブン&アイグループの取組みから、事業部門を巻き込むには、現場が抱える問題と向き合い、解決のための仕組みや場をつくることがキーになることがわかる。

また、共通の課題に直面する者同士が集まることで、横のつながりができ、情報交換が進むと、自ずと解決策が見えてくることもあるという。会議終了後の「飲みニュケーション」も、グループの一体感を高めるうえでプラスになっているようだ。
次ページヘ続く

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