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コラム

ブランコを漕いでリボンを考える―学生コンテストを通じて見た、企画に大切なこと―

リボン思考は社会を変える力になる

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独創的なアイディアや作り込みが評価

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身近なものをお土産に変身させる『アゲ男』。メンバーが「差し入れ」に注目したこともあり、差し入れは果たしてお土産なのかという議論も審査では挙がりましたが、一方でお土産の概念を変えたことを評価する声もありました。

審査員からは、彼らのインプットでの気付き、コンセプトへの収束のさせ方、そしてとても整合性のあるアウトプットのいずれにも高い評価が集まりました。とりわけ、その流れに一貫性があったことを評価する声が多かったように思います。私自身、特に彼らのコンセプトからアウトプットを導いたくだりで、セミナーで体験したことを素直に実践していたことがとても印象的で、私たちも改めて実直さが大事だと考えさせられる内容でもありました。

準グランプリを受賞したのは、同じく芝浦工大のチーム・ハヤシライスによる「アゲ男」。これはまた一風変わったアイディアで、ヒト型のメモにメッセージと表情を書き込み、付属したベルトをお菓子やジュースに巻きつけてお土産にするものです。ねぎらいの気持ちを伝えたいとき、もらう人の気持ちを“アゲたい”ときに使用します。審査で「このまま売っていてもいい」という意見が出たほどアウトプットの作り込みがすばらしく、それが評価につながったと思います。

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今回の参加メンバー。早々に、次回があったら参加すると言ってくれた人も。ここで学んだことを、就職活動や将来の仕事で活かしてもらえたらと思います。

ほかにも、実物の代わりのキーホルダーをもらった人が現地に行って実際のお土産を受け取る持ち帰らないお土産「OYTOK(オイトク)」(慶應SFCチーム・seesaw)、外国人旅行者を日本家庭でもてなし、お土産を受け取りつつ日本文化を知る体験をお土産とする「Drop in Dinner」(東大と早稲田の混成チーム・小川ストリーム)、出張帰りのお父さんから子どもへ、出張先の土地にまつわる昔話と関連するビスケットを添えた絵本「もぐもぐパパ」(慶應、東京芸大、立教の混成チーム・wild seesaw)など、いずれも独創的なアイディアが出揃いました。

リボン思考は、頭で理解するのは簡単なのですが、実践してみるとなかなかうまくいかないものです。段階を踏んでいくにつれてブレてしまい、最終的に整合性がつかなくなったり、わかりにくくなってしまったりすることは実際の業務でもよくあります。それにしても、半年前にはブランディングに関する知識がほとんどなかった学生たちが、これだけ仕上げてくれたことには、私たちも十分な手応えを感じることができました。

いい商品やサービスを通してよりよい世の中に

今回のコンテストは、参加学生の熱意もそうですが、学生の運営スタッフの尽力なしには成り立ちませんでした。運営に携わりながらブランドデザインの流れを知ったことで、「今までの広告のイメージが変わった。取り組んでみると、開発やブランドなどいろいろな要素が広告の仕事に関わっていると知った」(慶應大学 藤井陽平さん)、「本当にいいものは『ほしい!』に尽きると思うから、ロジックだけでなく感覚も大事なのだと実感した」(早稲田大学 松村圭太さん)といった意見がありました。

また、ブランドへの忠誠心がどこから来るのかに興味を持ち、ブランドを裏側から見たいと思って運営に参加したというロンドン大学の佐久間佳那さんは、「ブランディングやマーケティングには数字や統計を扱うイメージしかなかったが、五感を使うなどいろいろな視点からの取り組みがあること、ブランドはそれらを通して後からできてくるものだと知った」と話してくれました。

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BranCo! が無事終了できたのも、すべては学生運営スタッフのおかげです。

最後に、改めて「リボン思考」を扱う際のコツをまとめておきたいと思います。
まずインプットフェーズのポイントは、「努力」だと考えます。比較的、納得のいく調査結果が得られたときに「これでいいや」と思うのは簡単ですが、そこで妥協するかどうかで、その先の広がりが変わってきます。こっちもあっちも、と思うと際限なくなってしまうこともありますが、クリエイティブなリサーチを通じて小さな気付きから大きな可能性を見つけようと執念深く努力して探し続けることが何よりも大事だと感じます。

次いでコンセプトフェーズで大事なのは、「決断」です。インプットで風呂敷を広げれば広げるほど、情報がありすぎてまとめられなくなることは往々にして起こります。ただ、そもそも調べた結果をすべて使う必要はありません。不要な情報をあえて“切り捨てる”力が求められるのです。

そして最後のアウトプットフェーズで心に留めておきたいのは、コンセプトが「いける!」と思ったらそれを信じる「信念」です。コンセプトとアウトプットをブランコのように行き来した末に、明確なコンセプトを捉えられたら、あとは迷わずにすべての情熱と意志を傾ける。「魂は細部に宿る」ではないですが、ここまでやらなくても、というくらいディテールに配慮することが心を動かすこともあるからです。

もちろん、常に柔軟な発想が求められる企画の作業に王道はありません。時には、こうしたフレーム自体を否定することが有効かもしれません。ただ、守るにせよ破るにせよ、常に3つのフェーズでの“型”を意識し続けることはとても大切だと思います。

世の中でイノベーティブと言われる商品やサービスをみても、振り返るとこのシンプルなフレームに当てはまるものがほとんどです。「リボン思考」を上手に使いこなし、3つのフェーズの相互作用が高まると、その結果、魅力的な商品やサービスが生まれ、優れたブランディングやコミュニケーションができ、ひいては世の中をよくしたり、社会を少し変える力につながることでしょう。

ここまで読んでくださった皆さんにとって、本コラムが少しでも新しい商品やサービスを生み出すヒントになれば嬉しいかぎりです。

「リボン思考」を身につけることは、社会を変える第一歩なのですから。

※連載「ブランコを漕いでリボンを考える-学生コンテストを通じて見た、企画に大切なこと」は今回で終了です。ご愛読ありがとうございました。


宮澤 正憲「ブランコを漕いでリボンを考える-学生コンテストを通じて見た、企画に大切なこと」
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