消費概念の変遷
こうしたエシカル消費の概念は、先述したように1990年頃から始まったがこれは、歴史的に俯瞰すると消費の質が転換する経済発展の一局面と捉えるべきと考える。実は何気なく使っている消費という言葉だが、今のような消費行動が世界的に見ても一般的になってからまだ100年ちょっとの歴史しかないのだ。
現在消費先進国といわれる米国でも、19世紀の暮らしぶりは、「…1880年までにはかなりの家庭が鋳鉄製ストーブを備えていた。しかし、ほとんどの人は、依然として食物の一部を栽培するか、農家から直接購入して済ませており、衣料はほとんどすべて自家製であった。その後の30年間に、住む地域や階級を問わず、アメリカ人であれば、だれもが工場で生産された、食品、衣類、洗剤、家具を購入し使用するようになった。家庭や小規模な職人の仕事場では作られたことがなかった練り歯磨き、コーン・フレーク、チューイング・ガム、安全カミソリ、カメラが、新しい習慣の物質的基礎となり、古い時代からの隔絶を表した。*6」という状況であった。
つまり当時の地域の経済は小売商がその中心にあり、彼らは主に地元で生産された商品を、現金だけでなく掛売りや物々交換というかたちで取引していたのである。これを可能にしたのは、小売商と個人的なつながりのある地域の顧客との人間関係と信頼関係のネットワークである。しかし、その後大資本による大量生産設備や鉄道網など輸送網の整備、店頭の品をセルフで選ぶスーパーマーケットという新たな小売り形態が広がり、さらに、第二次世界大戦後のクレジットカードやショッピングモールの発明、マーケティングの発達が現在のような消費社会を作っていく。
振り返ってみると、今スーパーで何気なく購入する、味噌も、梅干しも、漬物も、お節料理も昭和の中期頃までは、都会でも自宅で作る人が少なくなかった。最近ではお茶もペットボトルで買うのが当たり前だが、これも20年ほど前には茶葉を買って自宅で淹れるものであった。小説など読むと、農村部では昭和の頃まで食料の他、燃料の薪や藁の草履なども自分たちで調達するのが当たり前だったことがわかる。
*6 スーザン・ストラッサー著・川邉信雄訳『欲望を生み出す社会』東洋経済 4頁
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