メール受信設定のご確認をお願いいたします。

AdverTimes.からのメールを受信できていない場合は、
下記から受信設定の確認方法をご覧いただけます。

×

全入時代、大学の社会的責任(USR)が問われている(1)

share

エコ大学ランキング

ここからはエコ大学ランキングの取組みを中心に紹介する。大学について教育機関、研究機関、そして事業者の3つの側面で捉えると、気候変動を含む環境問題に対して貢献する方法は、教育機関として環境人材の育成・輩出、研究機関として環境に関する技術的または社会制度的な研究成果を出すこと、そして事業者としてできる限り環境負荷を低減すること、と位置づけることができる。

研究成果は一義的に評価することが難しいこと、また日本では大学の事業者としての社会的責任が社会の中で見過ごされているという問題意識から、本ランキングでは特に事業者に重きを置いて評価してきた。また、評価にあたっては、(1)エネルギー・CO2、(2)環境対策実施状況、(3)環境マネジメント、(4)学生との協働・環境教育の4つの観点から、調査で得られた回答内容を評価してきた。なお、気候変動対策推進という立場から、特にエネルギー削減率やCO2排出効率、再生可能エネルギー利用率を重視して評価している(表参照)。
ただし、今年度から「大学の持続可能性」という観点を取入れ、評価基準、および調査項目を大幅に見直しており、バランスの取れた内容に改善される予定である。

キャンパス内での積極的な取組みは、直接的な環境負荷低減につながるだけでなく、将来長きにわたって地球温暖化対策に向き合っていかなければならない若者が多くの学びと経験を得ることにより、社会に出てからも当事者として主体的に取組むことにつながる土台となるという考えから、設備更新などのハード面での対策だけでなく、学生との協働も評価ポイントとして取入れているのも特徴である。

2009年に発表した第1回エコ大学ランキングは、学生が大学の環境対策を評価する珍しい取組みとして、テレビ、ラジオ、全国紙など数多くのマスメディアに取り上げられた。第2回以降も全国紙やドキュメンタリー番組に取り上げられるなど、引き続き多くの注目を集めている。特に2011年夏の節電要請を受けた大学の対策状況が反映された第4回(2012年発表)は、ランキング結果だけでなく、調査内容にも強い関心が集まり、全国紙を含む27もの媒体に取り上げられ、大学関係者に限らず多くの一般市民に大学における環境対策の現状と課題が認知された。

また、2011年からは大学ランキングを掲載する雑誌にも取り上げられており、大学選びにおいて「環境」という視点を取入れるきっかけになっていると信じている。

地方の大学や小規模な私立大学の名前が全国紙等に掲載される機会はそう多くないが、本ランキングはそのような認知度向上に苦労している大学のうち、環境対策に熱心に取組んでいる大学のPRにも一役買っている。毎年上位となった大学はランキング結果をウエブページに掲載したり、プレスリリースを出したり、有効利用していただいている。

先進大学の特徴

先進的な取組みを行っている大学には、(1)経営層のイニシアティブ、(2)キーパーソンの存在、(3)大学としての戦略という共通する特徴が見られる。

まず、経営層のイニシアティブについては、学長や理事長など経営層の理念のもとに、ある程度の予算配分をして、設備の設置などを実現する環境が整えられている。逆に言えば、いくら予算や人材が揃っていてもトップの意識が向いていないと、十分な対策が取られないということになる。冒頭で紹介したアメリカでのボトムアップによる変革と比べると、やはり日本的な組織文化の特徴が現れていると言える。

次にキーパーソンの存在だが、当然ながら、トップダウンだけでは実際の対策は進まない。先進的な大学には必ず学内で熱心に取組んでいる教員または担当職員がいる。学生という特殊な構成員と学部や研究室といった独立的な内部組織が存在し、縦割り意識が強い大学組織においては、一般的な企業に比べて組織マネジメントが難しく、トップダウンだけでは対策実行は難しい。このような条件でも諦めずに学生や他部署を巻き込んで熱心に取組む人の存在が大きな原動力になるのである。

最後に大学としての戦略についてだが、これは2つのパターンが挙げられる。1つめは、あまり知名度の高くない地方大学または小規模大学で、大学としての差別化を図るための戦略として環境対策に力を入れている場合である。少子化が進む中で大学の生き残りのために「環境」をテーマに掲げ、差別化を図っているのである。

もう1つは、知名度が高く、予算規模も大きい旧帝大などで、コンプライアンスとして、または大学の世界的な競争力を高めるための取組みとして、攻めの環境対策を行っている場合である。大学の国際化が進む中で、欧米の大学で取組まれている標準に合わせようとしているのだ。実際、北米版のエコ大学ランキング(Green Report)を見ると、イェール大学やハーバード大学、ブリティッシュコロンビア大学など世界トップクラスの大学が最高評価を得ており、大学しての社会的責任(USR)に対する意識の高さが伺える。

>>次のページへ