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アジア最大の広告祭をPRで倍返し!?―SpikesAsia2013 Report(第3回)

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アジア最大の広告祭「Spikes Asia Festival of Creativity(スパイクスアジア)」。このクリエイティブの祭典をPRの観点から斬ると、どんなテーマが見えてくるのか。ブルーカレントの本田哲也氏による、全3回の現地レポート。

いよいよ今回が最後のレポート記事になる。スパイクスアジアのアワード最終審査結果からPR部門にフォーカスし、審査の裏側と受賞者の生声を交えて紹介する。そのうえで、PR視点からのスパイクスを総括してみよう。

PR部門のグランプリは、ニュージーランドの「DRIVING DOGS(MINI/SPCA)」 が受賞した。初回のコラムで真っ先に紹介したケースだ(受賞したので言う訳じゃないが、かなり突出した印象は僕も感じていた)。「世界で初めて犬がクルマを運転する」という明快で国境を超えるニュース性と話題性。本物のプロトレーナーが8週間かけてワンちゃんを訓練する、それ自体をキャンペーン化するというPR発想の設計。その過程は巧みにソーシャルメディアとマスメディアをシナジーさせ、隙間なく幅広いリーチを獲得。その目的は「SPCA(動物虐待防止協会)のシェルタードッグは賢い(二流犬ではない)という事実を啓発せよ」、という事と、「同時にMINIがスポンサーしているということを認知させよ」という、まあ都合のいい(苦笑)というか、けっこう難しいお題。それをこの痛快なキェンペーンにまとめあげ、目標を遙かに超える結果も出した。文句はない受賞だろう。

前回のコラムで紹介したPR部門審査委員長のLynne Anne Davisに決め手を聞いてみた。「全審査員一致のポイントは、まず完璧にPRがその中心にあることね。アーンドメディアとシェアードメディアだけで驚異的な露出を獲得してる。さらに、ついつい目立たせようとしてしまいがちなスポンサー(MINI)を、見事なまでにさりげない関与度で抑えた。言ってみればキャンペーンの「back seat(後部座席)」に座らせたって感じね(笑)。本当に、loveable and ingenious(愛すべきで独創的)なキャンペーンよ!」

企画して実行したエージェンシーDraftFCBの責任者Angela Spain(PRのプロ。中心となった6名のPRユニットを率いた)にも聞いてみた。「ものすごく光栄よ!!まずコアアイデアはクリエイティブが発案したの。その直後にプロジェクトチーム全体が集まって、このクレイジーなアイデアをどう実現し最大化するかを議論した。初めはオンラインムービーだけの展開も検討されたけど、私たちは『最後の運転はテレビでライブ放送すべき』と主張したわ。それから、あまり表に出ていないけど大事なこととして、初期段階から綿密なリスクマネジメントプランを設計した。とにかくワンちゃんの負担がない、ということが最優先。すべての訓練はSPCAによって入念にモニターされたし、トレーナーの選考もじっくりと行ったわ」

その他、カンヌ2013で話題になった「DUMB WAYS TO DIE(METRO TRAINS)」や、日本からはトヨタさんの「AQUA SOCIAL FES!!」などがゴールドに輝いた(すべての審査結果はこちらから)。全体を総括して、前出のLynne Anneはこう語る。「スパイクスのPR部門はまだやっと3年目。スパイクス自体がまだ始まったばかりだし、アジアのクリエイティブの未来はこれから盛り上がるでしょうね。個人的にも素直に嬉しかったのは、多くの素晴らしい成功事例の『心臓』ともいえるアイデアが、PR発想にもとづいていたこと。もう少し深堀りすれば、これから成功するクリエイティブキャンペーンは、『shareable and memorable(共有され記憶に残る)』なのは当然として、同時に『sustainable and meaningful(持続性があり意義深い)』であることが求められると思う。PRの果たす役割はこれまでになく重要。私たち(PRのプロ)には大きなチャンスよね」

さて、3回にわたってスパイクスアジアをPR視点で見つめたレポート、いかがだっただろうか。ほぼ3日間という弾丸出張ではあったが、個人的にもいろいろな再発見があり、確信を強めることができた。ひとつひとつの成功例に学ぶというよりは、全体に息づく「共通項」のようなものを肌で感じることができた。こういう感覚はとても大事だと思う。「クリエイティビティ」という名のもとに、ひとつにはファクトやリアルストーリーの価値向上(ノンフィクション的な要素)。そして一方で反比例のように高まる、ドラマ性や演出メソッドの重要性(フィクション的な要素)。本質的に進行していることは、クリエイティブというものの定義や範囲の「上書き」のように思える。それが、時代の要請でもあるのだろう。クリエイティブアイデアを「倍返し」できるPR発想を大切に――まずは来年にエントリーできる仕事に邁進しよう(笑)。スパイクスアジア2014でお会いしましょう!

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本田哲也
ブルーカレント・ジャパン代表取締役。戦略PRプランナー。米フライシュマン・ヒラード上級副社長兼シニアパートナー。セガの海外事業部を経て、1999年、世界最大規模のPR会社フライシュマン・ヒラードの日本法人に入社。2006年、スピンオフのかたちでブルーカレント・ジャパンを設立し代表に就任。


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