分断するテレビの番組と広告
谷口:私は1社提供でも番組をつくりやすい「niconico」では、その企業や商品が持つ世界観に合った、様々なコンテンツを作れる可能性があるのではないかと思っています。「アドタイ」のコラムでも書いたのですが、昭和44年に放送開始した「ムーミン」は、企画段階で番組のターゲットであった子供には全然ウケなかったそうで、不安に思ったテレビ局側は、もっと刺激の強い番組・B案を、スポンサーのカルピスに提案したそうです。
それに対し、カルピスの担当者は「B案の方が人気はでるでしょう。しかし、モラルの面から言って、B案は情報公害を流すようなことになるかもしれない。多少ともそうした懸念のあるものにうちは手を出すことはできない」と発言し、「ムーミン」を支持したそうです。
今は、テレビの1社提供は減ってしまいましたが、1社提供だからできることがあるんだな、と。このカルピスの姿勢から、私はコンテンツと広告の未来を感じています。
杉本:テレビを非難しているわけではなく、1社提供にしろ、複数社提供にしろ「提供社」、「スポンサー」というものが、テレビの中で“風景化”していますよね。スポンサーがいるからこそ、コンテンツが成立しているという根本が忘れ去られつつあるというか。僕も子供の頃「この番組を提供するのは、○○社、××社です」という謎の言葉が流れるけれど、何のことを言っているのかよくわかりませんでしたから。
谷口:確かに。テレビのあのコンテンツと広告の分け方は豪快ですね。
杉本:テレビは番組と広告を切り離すことによって、効率的に稼げるような仕組みを構築したと思いますが、それによって根本が忘れられてしまった。広告主とコンテンツの関係性を再構築していくことが必要ですね。
谷口:ネットはいろんなものが原点回帰している場と言えそうです。
杉本:「スポンサーがいることは、あえて説明しなくても空気を読んで理解してね」みたいな雰囲気がある気がして、それってちょっと日本的だなと思います。それだけに、歴史的に見てきちんと説明することを怠っていたとも言えるんじゃないか、と。インタラクティブなネットの場合には、説明した上で「わかりましたか?」と問いかけることもできる。
しかも「niconico」をやっていて気付いたのですが、きちんと説明責任を全うしようする人に対してはユーザーも耳を傾けてくれます。人に何かを伝えたいと思っている人はまずそこから始めればいいんじゃないかと思います。
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