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コラム

山本一郎と燃ゆるICT界隈

パーソナルデータで広告界の地殻変動は起きるか?ーー西内啓×田中幸弘×山本一郎ビッグデータを語り倒すの巻(3)

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第一回「ビッグデータは幻想なのか?」(掲載中)
 西内さん、田中さんのプロフィールはこちらから
第二回「データサイエンティストって、ぶっちゃけどうなの?」(掲載中)
第三回「パーソナルデータで広告界の地殻変動は起きるか?」(今回の記事)

「エビデンスに基づいた経営判断」が企業を守ることになる

山本:さて、鼎談開始から2時間以上経ちましたので…そろそろまとめに入りますか。

田中:いや~まだまだ話せますけどね(笑)。

山本:やっぱりね、冒頭でも申し上げましたが「データ」というものがビッグデータの登場によって整理されてきたというのは大きい変化ですよ。「データを集めて人の知識に突っ込んでいくと、特定のナレッジになる」ということは見えてきました。それが今後、どういう芽の生やし方をするのか。2014年はそこが課題でしょうね。

田中:世界が広がっているのは事実ですよね。しかも、業界と国を超えたかなり標準偏差の大きな濃淡のある広がり…。あとはデータをどう管理するのか、入れ物と環境をどうするかの議論が必要です。クラウドを前提に考えると世界が別に見えてくるところもあるわけですし。

西内:僕自身はビッグデータそのものより、エビデンスをベースとしたマネジメントが花開くようになる可能性に注目しています。これまで経営学者とか教育学者、心理学者がつくった実証的な研究者の成果は、一般社会とギャップがあったと思うんです。でも今なら、彼らの作ったエビデンスを「ビッグデータの分析結果」に紛れ込ませて経営改善に活かす提案をしやすい土壌になってきた。それは非常に良いことだと思っています。

山本:これまでいかに、エビデンスに基づいていない意思決定をしてきたかっていう話ですよね。データの存在によって、それが白日のもとに晒されるようになってきたと。

西内:実はこういう地道な成果とか、意思決定が重要なポイントになるんですよね。

田中:エビデンスをベースとしたマネジメントが広がれば、広告会社の皆さんも「今まで一体何を根拠に提案してきたの?」と突っ込まれてしまう。その点を心得ておいていただいたほうがいいでしょうね。データさえあれば、検証によってすべてお見通しになってしまうわけですから。ですから次の次元での営業をちゃんと考えてますよ我々は!と胸が張れる方向感が示せるような、経営者ベースでの問題意識の共有が必要なんでしょうね。

冒頭で山本さんがテレビの視聴率の話に触れていましたが、メディアの皆さんにとっても恐ろしい話ですよ。おまけにリーガルの問題も同様で、広告会社がしっかりデータを管理していても業務委託先まで共有できているのか。「業務委託先が理解していませんでした」という話じゃ済まなくなってくる。

業務委託先のコンプライアンスの問題が今年のキーワードにならないことを祈ります(笑)。業務委託関連の法関係が重要になってくるのは事実だと思います。

西内:僕は各所で「10年後くらいには、企業がデータを活用するのが当たり前な社会になる」と話してますけど、「10年でそんなに変わらないでしょ」と懐疑的な声が結構多いんです。そういう反応を見ると「10年後も今のビジネスのやり方が通用すると、何を根拠に思ってるの?」という感じですよね。

ついでに言うと、「データ分析によって(企業が)儲かるようになる」というのはとてもトリビアルな変化で、むしろそれを通して「ビジネスの流動性が増す」という変化が大きいのだと思います。

今まではお互いのビジネス判断に大した根拠がなかったから、「人間関係」とか「現状維持」とかで仕事が取れてきた部分もあると思いますが、いざ「他の会社と取引した方が確実に儲かる」というデータを目の当たりにされたら、どんなに人間関係を築いてきてもすぐに売上を他社に持っていかれるかもしれない。

山本:「ビッグデータ万歳!」という風潮によって、流動性が増していくと。そうすると、今まで過大評価してきた施策のメッキがはげていくのでしょうね。視聴率はまさにそれ。既存の視聴率サンプルは統計的に正しかったけど、より細やかで速報性が高い正確なデータが流通し始めると、広告主はそちらに関心を持たざるを得なくなります。

西内:「エビデンスに基づいた経営判断」が企業を守ることにつながるでしょうね。逆に言えば、そういう経営判断をしていない企業はどうなっていくんだろう?という危機感こそ持っておくべきだと思います。

田中:「すべては経営トップの判断ですから」という一言で押し切ることができない時代になってきていますよね。特に上場会社はそうです。「合理的な経営判断が必要」という話が結果として、内部統制を通じて最前線ベースのお客様との関係でも検証されるようになるような社会の枠組みの変化が先行してきていますから。

山本:そうですね。だから企業はビッグデータをおどろおどろしいものと捉えるより「ちゃんと使えば成果が出るので、真正面から取り組んでみましょう」というスタンスでいるのがいいのではないでしょうか。

田中:広告産業におけるビッグデータという点ではどうですかね。データ収集の問題に話がいきがちですが。

山本:広告はどこまでパーソナルデータを追跡可能な状態を続けられるか、というのが争点ですよね。今のままネット広告にcookieつけて、いつまでもトレーサブルできるという大変グレーな状態はなくなるんじゃないですか。強烈な制限がかかる可能性もありますし。

これから今年6月までにパーソナルデータ利活用の関連法の大綱が発表になるわけですが、オプトイン主体の欧州型になったら従来のやり方から変わらざるを得ない。そうなると広告界の地殻変動が起きると思うんですね。この半年間は重要な節目ですよ。制度が変われば、確実に宣伝のやり方も変わる。「今までの仕組みじゃ維持できなくなるんだ」という危機感を、持っていてしかるべきでしょうね。

その意味では、新しい手法でクライアントの利益向上に取り組む会社はいくらでも成長の余地はあるということになりましょう。

(おわり)

参考=鼎談(1)「ビッグデータは幻想か?」をお読みただいた読者の方々へ
第一回の中で、言及させていただきました岡村久道先生のお話ですが、岡村先生が実務法律雑誌であるNBL(商事法務)という専門誌でパーソナルデータの件で三回連続掲載の論文を発表される予定になっていることがわかりました。今回掲載分の入稿までにはその具体的内容は判らないのですが、一回目は弁護士・国立情報学研究所客員教授岡村久道「パーソナルデータの利活用に関する制度見直しと検討課題(上)」NBL 1019(2014.2.15)とのことですのでご参考までお知らせしておきます。(田中先生より)