目線は、最初から世界に向けておく
・・・なんてことを、延々と書いて主張しないといけないくらい、自分たちは知られていないということを実感しています。いやあ、長い前振りでしたね(笑)。
そして、これこそが「地域発」の弱点だと思います。ことPR活動に関しては、東京でクリエイションをしている人に比べると、絶対的に不利です。
マスコミは完全に東京志向だし、地域から出てきたものは、「地方のわりには頑張っているね」的な扱いを受けることもよくあります。でもこれは事実だから仕方ない。福岡には九州中から人が集まり、さらに東京には日本中から人が集まってくるわけです。
層が厚くなるに決まっています。正直なところ、東京に拠点移した方が良いんじゃないだろうか、と悩んだことは1度や2度じゃありません。
でもそれは、日本だけを市場として見ているからじゃないか?
悩んだ末に、そう考えるようになりました。
「世界に打って出ようぜ!」というのとはちょっと違います。
自分たちが作っているのは非言語コンテンツだから、そのままの形で国を超えられるはずだ、と思うようになったのです。
世界から見たら東京も福岡も同じ日本じゃないか、と無理矢理言い聞かせているところもありますが。
そう考えるきっかけとなったのが、昨年開催されたインテル本社の主催する「Intel® Perceptual Computing Challenge」でのグランプリ受賞でした。世界16カ国2800件の応募作品の中から、世界一となったのです。
受賞した「KAGURA for PerC」は、このコンテストに応募するために、そして賞を獲るために制作したものです。
応募するからには受賞しないと意味がないので、コンテストの意図を噛み砕いて、それを実現することを目指しました。いわば、審査員がクライアントのようなものですね。
世界で、しかも今まで日本で誰も受賞したことのないコンテストで受賞すれば、世界の評価(外圧)に弱い日本人に強くPRできるんじゃないか、という思惑もありました。
作品は、最新の技術を使いながらも、10年前からずっと持ち続けている「楽器が弾けない人(=自分)でも簡単に演奏したい」という欲求を気持ちよく実現させるべく、細かいデザインからUXの設計まできっちりと作り込みました。
KAGURA for PerC
水に手を突っ込むような距離表現や、何となく演奏できてしまう操作感など、国や年齢に関係なく、言葉のいらない、人間にとっての本質的な気持ちよさを追求しています。
人間の本質的な気持ちよさ。
それは「Sound」と「Visual」と「Interaction」という三要素の心地よい連動によって生まれる。そしてそれは、本当に国を超えるんだということに、身をもって気づいたのです。
今度はそれを、BtoBではなくBtoCで試してみたい。そんな思いで開発し、今まさにリリースしようとしているサービスが「paintone」です。
このサービスは、誰でも簡単に「音の鳴る絵」を作って、世界中の人に届けることができるアプリです。
スマホやタブレットは、だんだん人間に寄り添ったデバイスになってきました。
それを最大限に生かす方法は、絵を描いたり写真を撮ったりして(Visual)そこに音を付けること(Sound)、そしてそれを並べて触って鳴らせるようにすること(Interaction)なのではないか。特にデジタルネイティブ世代にとっては、デジタルコンテンツは消費するだけのものではなくて、自分で作ったり、さらには誰かに提供したりするものにもなるのではないかと思ったのです。そして、そこに国や文化の違いはないはず。
そのためのツールを提供すれば、福岡に居ながらにして、「地域から東京へ、さらに世界へ」というのではなく、最初から世界に向けたサービスになると信じています。
こうしたサービスを次々と提供することを通じて、世界中の人たち、特に子どもたちが皆クリエイターになるような状態をつくれると楽しいなぁと思っています。
場所にも言葉にも縛られないクリエイティブな仕事を目指したいと、地域にいるからこそ強く感じるのでしょう。
「場所なんて関係ないよ」という言葉を、自信を持って言えるようになりたいと思っています。
中村 俊介(しくみデザイン 代表取締役/シクミスト)
名古屋大学建築学科を卒業後、九州芸術工科大学大学院(現・九州大学芸術工学研究院)にてメディアアートを制作しながら、博士(芸術工学)を取得。2005年、世の中を楽しくするしくみをデザインするため、しくみデザインを設立。2013年にはインテルの国際コンテストで世界一になるなど受賞も多く、参加型サイネージやライブコンサートのリアルタイム映像演出等、数々の日本初を手がけている。
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