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大臣経験もある政治家から本音を引き出したファシリテーションとは

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さらに、これらのエピソードをもとに、「なんでこんな時は思わず、あいさつしたくなるのか」「なんでこんな時は、あいさつしたくないのか」と、共通した理由や背景を探りつつ、最終的には参加者全員で「結局、人はなぜあいさつをするのか?」をまとめてもらいました。

すると、「あいさつとは、相手と自分がコミュニケーションできる状態にあるかどうかを確認するためのスイッチである」というポイントが見えてきました。あいさつは、その後に続く対話を始めても良いかどうか、それを相手に確認する行為だと考えたのです。

だからこそ、すっぴんの時やトイレではあいさつしたくないし、ケンカした次の日にあいさつすることが仲直りに繋がっているのです。とすると、あいさつをする若い人が減ったことが問題だというよりも、もしかしたら相手とコミュニケーションしようと考える人が減っていることの方が、より深刻な問題なのかもしれません。

犯罪増加や教育問題を話すよりも、もっと市民同士がコミュニケーションを取りたくなるような街づくりについて皆で考えた方が、結果的にあいさつが増える世の中に近づくのかもしれませんし、その方が、我が町のことを一緒に考えてくれる政治家だな…という感想を市民たちは持つのではないでしょうか。

実際の研修では、あいさつをテーマにした議論はここで終了として、進め方のポイントを以下の4つにまとめました。


1. 評論家的な意見ではなく、参加者の本音を引き出すことが大事

2. 本音を引き出すために、自分自身の体験談を語ってもらう

3. 集まった体験談に対し、『なぜそう思ったのか』と問いかけることで、共通した理由や背景を探っていく

4. 出てきたキーワードをもとに、結論を一文にしてまとめる

言われてみれば当たり前のことばかりなのですが、実際に体験してもらったので、議員の皆さんからも「目から鱗だった」「自分ごととして話すと満足度が上がることが良く分かった」と好評でした。さらに、余った時間で議員の一人に違うテーマで、即興ファシリテーションをしてもらい、これらのポイントを実践することの面白さや難しさも体験してもらいました。

こうして、1時間のファシリテーション研修は終わりました。私の役目は無事に終わり、会社をクビにもならず、ほっと胸をなでおろしたのを今でも覚えています。その後、参加した議員たちのファシリテーションが上手になったかどうかは分かりませんが、未だに全員落選しておらず、むしろ要職にいて日々活躍している姿を遠くから見守る今日この頃です。

さて、私がこのファシリテーション研修で最も伝えたかったことは、「本音を引き出す」ことです。政治の世界のみならず、ビジネスの世界でも本音が言えない会議の方が多いのではないでしょうか。だからこそ、ファシリテーターという存在が注目されているのだとは思いますが、かといって簡単に本音を引き出すことは出来ません。

私の近著『お客様を買う気にさせる「価値」の見つけ方』のなかでも本音を引き出すための質問の仕方について書いています。例えば、コンビニの店長が、もっとお客さんが来るためのアイデアを考えるために、そもそもコンビニにはどんな価値があるのかを話し合う会議があったとします。といっても、いきなり「コンビニの価値は何だと思いますか?」と従業員に聞いても、意見はスムーズには出てきません。そこで、このような質問を投げかけることで、自分自身の体験を話してもらいました。

「実は、こんな理由でもついついコンビニに行ったことがある、という体験とは?」
「コンビニに行って、ちょっとイラッとした体験とは?」
「もっと近いところに別のコンビニがあるのに、あえて遠くのコンビニに行ってしまった体験とは?」

なぜこんな変な質問ばかりするかと言うと、気持ちが動いた瞬間のエピソードを引き出したいからです。人の本音は、実は感情が動いた瞬間に現れるのです。例えば、コンビニで働いている人は、お客さんがコンビニで「イラッとした瞬間」などはあまりじっくり考えないと思います。しかし、自分がコンビニを使っていてイラッとした瞬間があったとすれば、それは何か「コンビニに期待していたけれども裏切られた」からイラッとしたわけであって、その裏返しには自分がコンビニに期待している価値が隠れていることになります。

政治家でも、ビジネスマンでも、どんな人でも日々生きていくなかで、感情が動く瞬間が必ずあるはずです。そんなエピソードをうまく引き出す質問を投げかけることが出来れば、きっと会議はもっと楽しくなります。各自が自分の体験談を話していたはずなのに、気が付けば全員で会社の未来について本音で語り合っていた。そんな会議が実現するのであれば、ファシリテーター冥利につきるというものではないでしょうか。


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岡田 庄生
株式会社 博報堂 コンサルティング局 ファシリテーター

1981年東京生まれ。国際基督教大学卒業後、2004年、株式会社博報堂入社。PR 戦略局を経て、2010年に、企業ビジョンやブランド、商品開発の支援を行うコンサルティング局に異動。多数の企業コンサルティングに関わる。2009年より現在まで、法政大学社会学部「コミュニケーション・デザイン論」の講師陣の一人としてワークショップ形式の授業を行っている。2013年、日本広告業協会(JAAA)懸賞論文金賞受賞。2014年、日本PR協会「PRアワード2014」優秀賞受賞。著書に『買わせる発想 相手の心を動かす3つの習慣』。近著に『お客様を買う気にさせる「価値」の見つけ方』がある。

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