2月28日に発売される『宣伝会議』2015年4月号では、「海外から見た、魅力の本質とは? 時代に合った“日本ブランド”発信」をテーマとし、インバウンド市場を中心に、“日本ブランド”を企業マーケティングにいかに活かすかについて特集。雑誌の発売に先駆け、誌面連動した全2回のミニレポートを掲載。第2回は、ジャパンショッピングツーリズム協会の事務局長を務める新津研一氏が、インバウンドビジネスの実態と取り組みのポイントについて解説します。
新たな市場として期待されるインバウンドビジネス
インバウンドビジネスは、世界の人口動態変化に沿った構造的な変革
昨今のインバウンドビジネスの活況について、「インバウンド・バブルではないか?」という疑問を耳にすることがあります。連日放送されている「世界中が日本に夢中」といった論調のバラエティ番組や「○○社が国内の数百店舗全店を免税店化」という憶測記事を真に受けたりしていては、インバウンドビジネス拡大の大きなチャンスを逃しかねません。
2014年、訪日客によるショッピング消費額を客数と客単価に分解すると、図1の通りになります。訪日客数の伸長率129%に対して、買物消費額は154%伸びており、驚異的だと言えるかもしれません。しかし、それぞれの要素について、冷静に考えてみましょう。
まず、1300万人を突破し、ますます増加する訪日客数についてです。驚異的なペースで外国人観光客が日本に殺到していることは事実ですが、
図2のように、韓国や台湾など近隣諸国にも外国人観光客は押し寄せています。中国人観光客は日本だけでなくアジアや欧米など世界各国へと海外旅行に出向いているのです。客単価の伸長率118%には、円安効果(前年対比116%程度と推計)が含まれていることを忘れてはいいけません。これを差し引くと、全体としての客単価はほぼ前年並みにとどまっていることになります。
となると、先ほどの数式の見え方は、全く違ってくるはずです。つまり、「日本も世界各国と同様に観光客が増えた。円安効果があったので、消費額が上積みされた」ということになってしまいます。しかし、インバウンドビジネスの市場は拡大していることは事実です。「爆買い」とも称される中国人観光客は、まだ中国の総人口の0.1%も訪日していません。であるならば、今後、これまでの数倍、数十倍の新規市場を産み出す可能性は低くないでしょう。
人口が2分に1人減少している日本と、1分に2人増加している世界。消費意欲が減退し続けている日本と、豊かさを求めて消費意欲が旺盛な世界。インバウンドビジネスは、世界の大きな人口動態変化に沿った、構造的な変革です。少なくとも2013年まで、それに気づくことなく、気づいたとしても対応できていませんでした。しかし、ようやくスタートラインに立った、というのが日本のインバウンドビジネスの現状でしょう。
国際競争力の向上が必須
国際観光における日本の競争力は高くなく、世界ランキング27位にとどまっています。1300万人を突破してもそのランキングが20位内に食い込むレベルには至りません。しかしながら、国民意識は「日本は国際競争力を高める必要はない」という答えが半数を占めています。
言葉が通じず、情報インフラ、決済インフラが整っていない。欲しいものを売っているお店を見つけられない。買いたい商品を見つけられない、商品説明も読めない。そんな、基本的な部分さえ、日本の小売りやメーカーは対応できておらず、訪日客の不満につながっているのが現状です。訪日客の不満や不便の解消に知恵を絞ってはじめて、PRや宣伝が訪日客の消費促進につながるのです。競合や業態を超えた連携・地域内での連携など、オールジャパンでの競争力の向上が、個店・個別商品のPR同様に重要です。日本の国際競争力が高まり、観光客が増加してこそ、街や店に来店するということを忘れてはいけません。
インバウンドビジネスをバブルで終わらせるのか、大きな成長市場とするのかは、スタートラインに立ったばかりの私たちの心構え次第なのかもしれません。
ジャパンショッピングツーリズム協会(JSTO)専務理事/事務局長、USPジャパン 代表取締役社長
新津研一
※本記事は、2月28日(土)発売の『宣伝会議』4月号「海外から見た、魅力の本質とは?時代に合った“日本ブランド”発信」にも掲載されています。
2月28日(土)発売
『宣伝会議』4月号「海外から見た、魅力の本質とは? 時代に合った“日本ブランド”発信」
東京オリンピックが開催される2020年には2000万人を突破するという目標が国によって掲げられるなど、さらなる拡大が見込まれる「訪日観光客市場」。企業はどのように “日本ブランド”を活用し、効果的なブランディングおよび自社の売上向上を図るべきか。インバウンドビジネスへの様々なアプローチから、マーケティングのヒントを探ります。
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