危機対策の5つの工程管理
危機的状況が発生すれば、時間の制約の中で、できることは極めて限られてくる。企業がその存続をかけて行うべきことはおよそ以下の5つと考えてよい。
(1)アクションプラン
「危機」発生後、(a)どの段階で(When)、(b)どの役割・責任を担う者が(Who)、(c)何を目的に(Why)、(d)どの場所で(Where)、(e)誰に対して(to Whom)、(f)どのようなアクションを(What)、(g)いかなる方法で(How)、行うべきかを予め明示しておく必要があり、一度危機管理組織が動き出せば、現場はその指示に忠実に従わなければならない。指示を出す側も現場に混乱や議論を招くような曖昧な指示を絶対に出すべきではない。
(2)情報管理
「危機」はもともと予見されていないか、予見を超えたところで発生するもので、情報不足が常につきまとう。そのような場合、人の判断は偏りがちで、自分の意見に合致する補強的情報を過大に評価し、反証情報を過小評価する兆候が見られる。さらに言えば、限られた情報を基に、迅速な判断が求められると視野狭窄的となり、独断的結論に帰着させる傾向が強くなるため、誤った経営判断が誘引される。「情報管理」とは、危機的状況における「情報の収集・分析」、「事実確認」、「噂の排除」、「機密情報の漏えい対策」、など情報周りの的確な管理を指すものである。
(3)タイム・マネジメント
危機的状況下では通常、「事実確認→原因究明→対応措置→責任表明→再発防止策の実施」と、順序よく展開していかねばならない。この通過点を時間がないからといってスキップすることは許されない。その通過点の断絶は明らかにロジックに穴をあけ、メディアや消費者を含むあらゆる利害関係当事者に対する情報開示に精彩を欠かせる要因となる。タイム・マネジメントは危機管理の工程管理の基本であり、各ステップは重要管理点(Critical Control Points)である。
(4)選択肢の合理的分析
収集された情報は、事実と噂、伝達情報や意見といった複雑な色合いをもったものに細かく分類され、最終的に経営判断チーム(主に取締役会)によってその選択肢は判断される。時間の制約下で、完全な情報収集がなされることは少なく、満足できるレベルまでの情報は得られない。そうした状況下では各選択肢はその解釈や判断の仕方によりメリット・デメリットが混在し、どの選択肢がベストであるかを容易に見極めることができない。法務担当者や外部専門家を入れた分析チームは、これらの選択肢を各方面から多角的に分析し、メリット・デメリットを詳細に検討していくことが法的リスクを回避する早道だ。
(5)大胆な経営判断
大胆と言っても「いいかげん」という意味ではない。経営判断チームは危機のピークと言われる記者会見までの数日の間、少なくとも、10〜20の経営判断を行う必要に迫られる。情報がないからという理由で判断を遅らせれば前述の「タイム・マネジメント」が不可能となる。創業者の意思だからという理由で独断的な判断を行えば今度は「選択肢の合理的判断」が抜けることになる。危機管理の5つ目のポイントは今迄の全ての工程を踏まえて、経営判断を行うことにある。すなわち、適正な情報収集、緻密な選択肢の検討・分析、タイム・マネジメントされた妥当な経営判断は、互いの関係が合理的であり、補完しあって客観的に導きだされてこそ法的価値が見いだされる。「大胆」とは、この場合、時間の制約下で「リスクテイク」することだ。
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