【前回コラム】「広告会社やPR会社という業務区分の意味が既になくなりつつあるという話」はこちら
「広告脳」と「PR脳」の違い
前回のコラムでは、デジタルマーケティング時代においては、広告会社やPR会社、制作会社などの縦割りの役割分担の境界線の意味がなくなりつつあるのではないかという話を書きました。
ただ、ここで問題になるのは、業界としての境界線は意味が無くなってきていても、広告とPRは予算構造や精神構造が根本的に大きく異なっていることが多いという点です。
このコラムでは議論を単純化するために、あえて言葉の定義をシンプルにさせてもらいます。
広告を担当する部署を「宣伝部」。
PRを担当する部署を「広報部」としましょう。
宣伝部の方は一般的には、テレビCMや新聞・雑誌広告、バナー広告などのいわゆるペイドメディアの広告露出を手法の軸として仕事をされていることが多いでしょう。一方で、広報部の方は一般的には、メディアの記者の方々やユーザーとのコミュニケーションを通じて、話題作りやメディア露出、いわゆるアーンドメディアの獲得を手法の軸として模索されていることが多いでしょう。
宣伝部においては通常広告枠を押さえるための広告予算があり、この広告予算をいかに各種のマーケティング手段やメディア毎に効果的に配分するか、という「広告脳」で物事を考えることが中心になりがちです。
一方、広報部においては通常、広告宣伝費のような予算はほとんど存在せず、自分たちのコミュニケーション活動を通じて、どのように話題を作ったり、メディアに興味をもってもらうかという「PR脳」で物事を考えることが中心になるはずです。
つまり、この広告脳とPR脳は、それぞれペイドメディアとアーンドメディアをターゲットにしているという点で、根本的に思考回路が違います。
広告であれば、お金を払って広告枠を購入しているので、お金を払った分確実に露出がされますし、広告の内容も基本的には企業側が完璧にコントロールできます。ただ、その分お金が無ければ大きな露出はできません。
一方、PR露出は、コミュニケーションを通じて獲得するものであって、お金を払って獲得するものではありません。記事やクチコミとして出現する内容も、記者やユーザー次第であってコントロールは普通できません。
この二つを混同して、広告脳の人が広告脳のママ、PRに取り組もうとすると、論理的におかしなことになりがちです。
広告脳の人からすると、お金を払っただけ必ず何かしらの露出が獲得できるのが普通。そうすると広告脳の人にPR会社が「PR活動の結果がメディアに掲載されるとは限りません」と説明すると当然広告脳の人は「金を払うのに成果が保証できないとはどういうことだ?」と怒ることになります。
本来、PR会社に支払うフィーは、専門家を社内に採用せずにパートタイムで稼働してもらうことに対する人件費の延長であるべきですが、広告脳の人からするとPR会社のフィーも広告枠を購入する費用と比べてしまいがち。
そうすると、これまでのステマ騒動の背景にあるようなPR活動にも関わらず「Yahooニュースに掲載保証」という通常のPR会社であればリスクが高すぎてとてもあり得ないPRメニュー(実際にはステマ記事を裏でメディアと結託していた広告メニュー)が登場することになるわけです。
参考:「ヤフージャパン一人勝ち」と「報道記事の買い叩き」がステマ横行の原因
一方で、実際には広告代理店のプランナーの方々の中には「コミュニケーションデザイン」という言葉に代表されるように、広告枠の活用ありきでプランニングをするのではなく、ゼロベースのPR脳でコミュニケーションのデザインから取り組まれる方も増えてきていますから、必ずしも広告会社=広告脳、PR会社=PR脳とは限らないのが、話が混乱する所なんですが。
ただ、少なくとも企業側には、広告脳とPR脳の両方が必要なのは間違いありません。
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