Enduring Stories: A (Big) Bird’s Eye View
同じく初日の11:00から行われたセッションには、セサミストリートのビッグバードの“中の人”、Caroll Spinneyが登場。タイトルが「(大きな)鳥瞰図」とはシャレが効いている。ユーモアたっぷり、さまざまな本質のヒントを語った。
ビッグバードは当初は「大人」の設定で、「子どもたちに教える」存在と位置付けられていた。だが、日中子ども達の遊び場にいることを考えると、大人ではどうにも腑に落ちない。そこで、撮影初日、ビッグバードは4歳半の設定となり、「子どもたちと一緒に学ぶ」存在へと変わった。
1969年から40年以上にわたって放送されてきたセサミストリートは40年以上続いている。これほどまでに長く続いたのは、セサミストリートが「ファンタジー」ではなく、本質的だからだという。その時代その時代の子どもたちに合わせて、ビッグバードとさまざまなことを学んでいく。
例えば出演者の一人が亡くなったとき、「おじいちゃんは引退してマイアミへ行ったよ」などと言うこともできたが、番組では「死」を正面から扱う決断をした。ビッグバードがおじいさんにお土産を持って行くと、おじいさんはいない。「じゃあ、来週またくるね」と言うと、「来週来てもいないよ」と言われる。「えっ?次の週は?」と聞くと「もう帰って来ないんだよ」と諭される。それに対して「なんだか、悲しい気持ちになるのはなんでだろう?」とビッグバードは感情を表現する。「死」について言葉で説明をしなくても、その状況が子どもに伝わる。米中の関係が変わった際、ビッグバードは万里の長城でロケをしたというエピソードもある。
その場、その時代を4歳半の目線でまっすぐ語る。昨年、ビッグバードはTwitterデビューを果たした。炎上しても、あくまで「子ども」として「うわっ、どうしよう?!」と反応し、その状況の危うさを子どもに伝えていく。子どもたちのメディア環境が変われば、ビッグバードを取り巻く環境も変わるのだ。
セサミストリートは長らくPBS(Public Broadcasting Service:公共放送サービス)で放送されてきたが、150カ国以上で放送される現在、ローカライゼーション費用など、制作資金不足に悩み、年間の制作本数が20本まで減らされる危機にあったそうだ。
最低でも年間26本、アルファベットの数だけ撮影したいと思っていたところ、HBO(Home Box Office。米国最大のケーブルテレビ放送局)が助け舟を出した。HBOでは広告収入だけでなく、おもちゃの販売に力を入れており、キャラクタービジネスでセサミストリートをマネタイズできるという。40年以上続けてきたからこそ、親世代だけでなく、祖父母世代もおもちゃを買ってくれる。粋なのは、本放送はHBOでも、PBSを見る習慣のついている子どもたちのために、PBSへは再放送権料を無料で提供し続けているということだ。“ヒューマン”であることが、時を越える本質となる——“大きな鳥”はそう話した。
初日の2コマを報告するだけで字数が尽きてしまったが、今年のAdvertising Weekではこの2つに象徴されるような話が多かった。テクノロジーがコモディティ化する中で、ビジネスになる、稼げる価値のあるものは、「人間にしかつくり出せない本質」だ。当たり前の話なのだが、そのことをあらためて突きつけられた。利便性や機能性を追求するのではなく、内を見つめ直し、本質を徹底的に追求したビジネスのみが生き残る。そんな岐路に立っているのだということを感じた。
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