このシステムをうまく「ハック」して生まれたのが「カジュアルカープール」という通勤方法です。イーストベイの主要な駅やフリーウェイの入り口付近でサンフランシスコへ行きたい乗客を拾い(まったく知らない赤の他人)、サンフランシスコのダウンタウンでその乗客を降ろす。するとドライバーにとっては渋滞を避けれて、おまけに通行料も安い。乗客にとっては交通費がかからないし、往々にして他の交通手段よりも早い。「カジュアル」というだけあって、政府が実際に施工したものではなくて、あくまで草の根的に広まった方法です。ちなみに拾う場所と降ろす場所は自然と決まっていて、ボランティアがつくったサイトで紹介されています。今でこそスマートフォンやアプリを使ってこういったシステムが比較的簡単に生まれてもおかしくなさそうですが、聞くところによるとこのカジュアルカープールは70年代にはじまったそうです。もちろん当時はインターネットなんてありませんでした。全米を探せどこの珍しい通勤手段が根付いているのはここイーストベイだけで、周りのアメリカ人に聞いても「何それ!Super Weird!」だそうです。さすが全米一リベラルな街。
40年の歴史があるだけに明文化されていないエチケットも色々とあります。例えば挨拶以外の会話はドライバーが会話をはじめた場合のみとか(ドライバーによっては運転に集中したい)、乱暴な運転をするドライバーや失礼な乗客がいた場合は掲示板に報告する等々。 また「2人でなく3人」というのもこのシステムが成立するのに適している要素です。密室空間に2人だったら色々と心配事も増えますが、他人同士が3人となると微妙な緊張感も生まれ、犯罪の恐れもだいぶ低くなります。僕が知る限り大きな犯罪に巻き込まれたという話はきいたことがありません。
イーストベイに引っ越した当初、丁度自宅から1ブロック先にこのカジュアルカープールのロケーションがあるのを知って、恐る恐る試してみました。
朝の8時。家を出て曲がり角をまがる。するとすでに10人くらいの列があります。どんなことでもそうですが最初というのは緊張します。初心者と悟られないよう、あたかもベテランのようにさっと列に並ぶ。すると1分もしないうちに車がやってきました。停車した車に先頭の二人が何も言わずに乗り込んでいきました。なるほどなるほど。ものの数分で自分の番が回ってきました。やってきたのは日本車のセダン。僕も何も言わずに車へ乗り込みます。
「Good morning」とだけ、互いに挨拶。おぉ、本当に必要最低限の挨拶のみ。
乗客がシートベルトを締めたのを確認すると、車は走り始めました。ほどなくベイブリッジへ。今日も変わらす大渋滞している車の列を横目に、すいすいとカープールレーンを走り抜けていきます。ほどなくサンフランシスコのダウンタウンに到着。かかった時間は15分ほど。何も言わずにシートベルトをさっと開け、サンキューとお礼をしてから車から降ります。周りを見渡すと続々と車がやってきては、無言で人が降りて来ます。イーストベイのいたるところからやってくるカジュアルカープールの通勤客たち。なんて効率的なんだろう。そしてなんてカジュアル。
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